初恋の君と、最後の恋を。
充実した夏だった。
病室という限られた環境ではあったけれど、仁くんとたくさんお話をして、ひとつの本を一緒に読んで、手を繋いで。穏やかな時間だった。
「え?もう退院?」
「幸い外傷は無いしね。仕事に戻らないと、色々と大変なんだよ」
せっせと荷物をまとめる仁くんの顔に浮かんでいたクマは解消されていて、まぁ少しは休むことができたのかな。
「それで菜子、今夜はうちにおいで」
合鍵を貰ったけれど、ひとりで眠ることが怖くて結局、病院に寝泊まりしていた。
個室で助かったな。
「春嶋さんにも許可とってあるからさ」
お父さん…大事な嫁入り前の娘によく許可を出しましたね。それだけ仁くんが信用されてるってことなんだろうね。
「私も仁くんのお家、見てみたい!」
「それじゃぁ早速、合鍵を使ってね」
バッグに入った合鍵。
遂に使う時が来るんだ…。