初恋の君と、最後の恋を。
仁くんの部屋はエレベーターから1番近い位置にあった。
ゆっくり話して、私の気持ちに嘘をないことを伝えよう。そうしたら全てが上手くいくよね。
「開けてもいい?」
バッグから鍵を取り出す。
このままでは失くしそうだし、可愛いキーホルダーでも付けようかな。どうせなら仁くんとお揃いの…
鍵を鍵穴に差し込む。
ガチャッと、解錠の音がした。
「菜子!」
ドアノブを掴もうとすると、勢い良く手首を掴まれた。
同時にギュッと力強く握られ、痛いとも感じる。
「この扉を開けたら、もう戻れない」
「…戻れなくてもいいよ」
「僕はずっと菜子と過ごす未来のことだけを考えていた。この部屋に引っ越してきた時も、君との暮らしを想像して期待に胸を膨らませていた。だからその想像が現実になったらーー止められそうにない。嫌がる君を一生、部屋から出せないかもしれない」
「部屋からずっと出れないのは嫌だけど、おばあちゃんになるまでここに住んでも良いよ」
「…もう後戻りはできないよ?僕自身のブレーキも限界で、自制できないかもしれない。菜子にはその覚悟があるの?」
「あるよ」
玄関の前で立ち話になってしまった。
やっぱり仁くんは真面目で誠実だ。
何も考えず、私をあなたのものにしてくれても良いのに。
それくらいの覚悟はもう、してる。