初恋の君と、最後の恋を。
バイト先の店長さんのご厚意で今日のお代はサービスしてもらった。
宿泊場所を確保しておらず、黒瀬先輩と同じホテルに泊まることになった。
夜道を歩きながら、
緊張していた。
仁くんのお部屋にあげてもらう時には感じなかった胸の高鳴り。別に同じ部屋で眠るわけでもないのに。
「兄が心を決めたと言うのなら、俺も逃げてばかりじゃいられないな」
隣りの黒瀬先輩は足を止めた。
「黒瀬先輩も逃げることってあるんですか?」
「君から逃げてばかりだよ」
「私ですか!?」
先輩は閉店したお店の前にあるベンチに座った。
「情けないよね」
「先輩はいつもありがとうって私の気持ちに応えてくれて、逃げるなんてそんな…」
隣りに座る。
「ずるくない?ありがとうなんて中途半端な返事。当たり障りがなくて、相手の気持ちに向き合わずに済むから楽なんだけど」
「先輩はモテるから。いちいち相手と向き合っていたら大変ですもんね」
こうして隣りで話せることすら贅沢な相手なんだ。
先輩が卒業するまであと数ヶ月…