初恋の君と、最後の恋を。

バイト先の店長さんのご厚意で今日のお代はサービスしてもらった。


宿泊場所を確保しておらず、黒瀬先輩と同じホテルに泊まることになった。



夜道を歩きながら、
緊張していた。


仁くんのお部屋にあげてもらう時には感じなかった胸の高鳴り。別に同じ部屋で眠るわけでもないのに。



「兄が心を決めたと言うのなら、俺も逃げてばかりじゃいられないな」


隣りの黒瀬先輩は足を止めた。


「黒瀬先輩も逃げることってあるんですか?」


「君から逃げてばかりだよ」


「私ですか!?」


先輩は閉店したお店の前にあるベンチに座った。



「情けないよね」


「先輩はいつもありがとうって私の気持ちに応えてくれて、逃げるなんてそんな…」


隣りに座る。



「ずるくない?ありがとうなんて中途半端な返事。当たり障りがなくて、相手の気持ちに向き合わずに済むから楽なんだけど」


「先輩はモテるから。いちいち相手と向き合っていたら大変ですもんね」



こうして隣りで話せることすら贅沢な相手なんだ。

先輩が卒業するまであと数ヶ月…

< 213 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop