初恋の君と、最後の恋を。
感傷に浸っていると、不意に肩に重みを感じた。
さらさらな髪が頰に触れる。
「前に俺が言ったことを覚えてる?」
距離が近すぎて、先輩の顔を見れない。
泣いたせいで顔はぐちゃぐちゃだろうし。
「君が望むのならーーその婚約者から、君を奪ってみせるよ」
「黒瀬先輩!?それはきっぱりフラれる前の話で…」
「婚約者が兄と知って身を引こうと思ったことは否定しない。けど、俺はもう逃げないよ」
肩が熱い。
「今まで女の子を好きになったこともないし、俺も初めての恋に戸惑ってた」
「初めての恋?」
すっと先輩は立ち上がる。
ベンチに座る私と目線を合わせるように、片膝をついた。
「春嶋菜子さん。君が好きです」
先輩の口から発せられた名前が、自分のものでないような気がして。
すぐに反応できなかった。