初恋の君と、最後の恋を。
相馬先輩の活躍で圧勝した試合。
ユニフォームを脱いだ彼の周りにたくさんの生徒が駆け寄っている。
「帰ろ」
踵を返す雅美に頷く。
人と関わることが嫌いな彼女が試合の応援に来ただけで、進歩だよね。
「なんか食べて帰る?」
「良いけど」
バイトを代わってくれたお礼もしたい。
「2人とも待ってよ!着替えて来るから、一緒に帰ろ」
足音が聞こえたと思ったら、彼はもう私達の前に立っていた。
頰に伝う大量の汗。邪魔なのか前髪を掻き上げてひとつに結んでいた。
「応援に来てくれたお礼になにか奢るよ」
「あんたのこと、待ってる子たくさんいるでしょ」
雅美が言い返すと、相馬先輩は白い歯を見せて笑った。
「妬きもち?雅美ちゃんも可愛いところあるじゃん」
「違ぇし!」
雅美が相馬先輩の足を蹴り飛ばす。
仮にも選手の足に…。
「照れなくて良いよ。雅美ちゃんにとって俺は特別だって分かってるから」
ウインクを飛ばした相馬先輩に、あからさまに雅美は嫌な顔をする。
「はあ?」
「だから待ってて」
そう言い残して相馬先輩はまたみんなの輪に戻って行った。
雅美の気持ちに気付いているのだろうか。
そして足を止めた雅美の気持ちは明白だ。
「せっかくだから、奢ってもらおう」
「……面倒くさい」
それでも行かないとは言わない彼女が可愛くて、ギュッと抱き締めた。
「素直になりなよ」
雅美にとって相馬先輩は助けてくれた王子様だ。
出逢った瞬間から、特別な存在になったことだろう。
「うるせぇ」
腕の中で呟いた彼女の言葉は、先輩を好きだと認めているようなものだ。
良かった、自覚はあるんだ。