ワケありヤクザと鈍感少女
角を曲がり、みんなの姿が見えなくなると

彼は握っていた私の手をはねのけ、

「なんでそんなノロイのおまえ。」

と冷たい声が響く。

「・・・え」

突然言われた言葉に私は固まってしまった。

「・・・ここ入れよ。」

匡さんに背中を押されて入った食堂には、

味噌汁や、焼き鮭、出来たての白米に、納豆・・・

たくさんのご飯が広がる大きな机。

「おまえは、そこ。響也さんの隣。」

と、指を刺された席は明らかに他の椅子とは違う。

ふかふかの座布団が置かれた真っ白な椅子に目を取られていると、

「・・・早く座れよ。」

怒る匡さんに恐れながら、ふかふかの椅子に座る。

(わ、すっごいふわふわ・・・)

そんなことを思っていると、目の前にお茶が置かれる。

「・・・あ、ありがとうございます。匡さん。」

「・・・別にお前のためじゃない。

仕事だから。」

少しの沈黙が続く。

「あ、あの・・・」

「・・・何。」

冷たい目で私を見る。

「どうして私そんなに嫌われてるんですか?

もしかしてなにか気に障ることしましたか?」

と、私は問いただす。

すると、匡さんはこう答えた。

「俺、お前みたいななんも考えてないような

能天気な女嫌いなんだよ。

・・・ったく、

なんでおまえみたいな能天気なガキに無駄な時間を使わないといけないんだよ。」

なんかこの感じ・・・。

そっけない対応、前髪で隠れた左目の下の切り傷。

人と目を合わせて喋らず、首に手をやる癖。



「匡さん、苗字はなんて言うんですか?」

「・・・それ言う必要ある?」

「私が個人的に気になるんです。

教えてください!」

すると彼は面倒くさそうにため息をつくと、

「・・・この世界のことなんも知らねぇーような

ガキに俺が本名教えると思うか?」

私はただただ匡さんをじーっと見つめ続ける。

「・・・。」

懲りずに見つめ続ける。

「・・・・・・野川。俺の名前は野川匡。

これで満足か?」

「・・・野川!」

名前を聞いた瞬間、私は確信した。


「私、ガキなんで色々教えてください




お兄・・・ちゃん。」




お兄ちゃん。


・・・私は気づいてしまった。

匡さんは、私の実の兄だったのだ。



「その呼び方・・・・・・

名前が沙綾って・・・まさかお前」

匡さんが驚いたような顔で私の顔に触れようとした

その時、外からわやわやと賑やかな声が響く。

匡さんは私から手を離し、一気に距離を置く。

直後、ぞろぞろと食堂へと厳ついお兄さん達が入ってくる。

すると、私の隣に響也さんが座る。

「いっぱい食べろよ。沙綾。」

「・・・」

「・・・沙綾?」

目の前に響也さんの綺麗な顔が飛び出てくる。

「・・・あ、い、いっぱい食べる!」

「全ての命に感謝して...

いただきます。」

「「...いただきます!」」

元気な挨拶が食堂に響き渡った。
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