今夜、シンデレラを奪いに 番外編
「高柳さんと婚約してるのに、男嫌いなの?」
「男嫌いと言っても、結局は相手がどういう人物かということに尽きるんじゃないでしょうか。
俺も女性が苦手なので、その気持ちは少なからず理解できますよ。」
「そうだったの…………!?」
「はい、俺は透子が好きですが基本的に女は苦手です。苦手なりに対応する心得くらいはありますが。」
「だっ、あの、急に好きとかっ。
……じゃなくて、どうして私は大丈夫なの?」
「…………。
さあ、あまり女性らしくないからでしょうか。」
「そーですかー」
聞いた私が馬鹿だった。恋人とはいえこいつはこういう奴なのだ。さっきは『好き』とか言うからこっちはドキドキしてるのに、この容赦ない言い様。
下を向いてこっそりため息をつくと「危ないですよ」と肩を抱くようにして人並みから避けられる。
「…………っ
ありがと」
夏雪は女の人が苦手と言ってもレディーファーストに慣れてるし、自然とこういう気遣いができるんだろう。
でもされている側の私は、心の水面がぱしゃぱしゃと波打つほど動揺してしまう。ちょっと触れられただけでも肩とか熱いし。
「とにかく、男嫌いの女と、女を苦手としている俺では話になりません。その女の説得は透子にかかって…………
…………透子は何故俺の仕事の気力を削ぐ?
急にそんな顔を見せるのは反則ですよ。」
「え?」
「この人混みではキスもできないのに、俺を殺す気ですか?」
「えぇ!?」
「そう驚かれてもダメなものはダメです。
あなたはキスの前後に自分がどういう表情をしているか知らないから。俺はあの顔を他人に見られて平気でいられるほど心が広くない。」
「何言ってんの違っ………。今ここでキスとかそういう話じゃ、」
「わかりました。高柳さんの家に行くのは止めましょう。どこか二人になれるところに。」
指先を繋がれて耳元で囁かれる。理屈抜きで心の中に侵食する、ひたひたと甘い気配。
冗談なら私を揺さぶるのは止めてほしい。思わせぶりな言葉ひとつで私は堪らない気持ちになるのに。
ぎゅっと目を瞑って、ふらつく気持ちをやり過ごした。
「もうっ、自分で誘っておいて行かないとかあり得ないでしょ!」
「誘ったのは透子ですよ」とワケわかんないことを言う夏雪を引きずるように高柳さんの家に向かう。
暫くして、月島駅から程近くの都会的なタワーマンションにたどり着いた。ここが高柳さんのお家らしい。
「これは夏雪にとって仕事、なの?」
「プライベートでもあり、仕事でもあります。
高柳さんの婚約者の説得は重要課題ですから。」
部屋の前でまたしても物騒に目を光らせた夏雪がインターフォンを鳴らすと、扉を開けてくれたのは鋭い視線が場違いに思えるような小柄な女の子だった。
彼女は夏雪を見て何かわなわなと口を動かし、やがて意を決したように声を発する。
「男嫌いと言っても、結局は相手がどういう人物かということに尽きるんじゃないでしょうか。
俺も女性が苦手なので、その気持ちは少なからず理解できますよ。」
「そうだったの…………!?」
「はい、俺は透子が好きですが基本的に女は苦手です。苦手なりに対応する心得くらいはありますが。」
「だっ、あの、急に好きとかっ。
……じゃなくて、どうして私は大丈夫なの?」
「…………。
さあ、あまり女性らしくないからでしょうか。」
「そーですかー」
聞いた私が馬鹿だった。恋人とはいえこいつはこういう奴なのだ。さっきは『好き』とか言うからこっちはドキドキしてるのに、この容赦ない言い様。
下を向いてこっそりため息をつくと「危ないですよ」と肩を抱くようにして人並みから避けられる。
「…………っ
ありがと」
夏雪は女の人が苦手と言ってもレディーファーストに慣れてるし、自然とこういう気遣いができるんだろう。
でもされている側の私は、心の水面がぱしゃぱしゃと波打つほど動揺してしまう。ちょっと触れられただけでも肩とか熱いし。
「とにかく、男嫌いの女と、女を苦手としている俺では話になりません。その女の説得は透子にかかって…………
…………透子は何故俺の仕事の気力を削ぐ?
急にそんな顔を見せるのは反則ですよ。」
「え?」
「この人混みではキスもできないのに、俺を殺す気ですか?」
「えぇ!?」
「そう驚かれてもダメなものはダメです。
あなたはキスの前後に自分がどういう表情をしているか知らないから。俺はあの顔を他人に見られて平気でいられるほど心が広くない。」
「何言ってんの違っ………。今ここでキスとかそういう話じゃ、」
「わかりました。高柳さんの家に行くのは止めましょう。どこか二人になれるところに。」
指先を繋がれて耳元で囁かれる。理屈抜きで心の中に侵食する、ひたひたと甘い気配。
冗談なら私を揺さぶるのは止めてほしい。思わせぶりな言葉ひとつで私は堪らない気持ちになるのに。
ぎゅっと目を瞑って、ふらつく気持ちをやり過ごした。
「もうっ、自分で誘っておいて行かないとかあり得ないでしょ!」
「誘ったのは透子ですよ」とワケわかんないことを言う夏雪を引きずるように高柳さんの家に向かう。
暫くして、月島駅から程近くの都会的なタワーマンションにたどり着いた。ここが高柳さんのお家らしい。
「これは夏雪にとって仕事、なの?」
「プライベートでもあり、仕事でもあります。
高柳さんの婚約者の説得は重要課題ですから。」
部屋の前でまたしても物騒に目を光らせた夏雪がインターフォンを鳴らすと、扉を開けてくれたのは鋭い視線が場違いに思えるような小柄な女の子だった。
彼女は夏雪を見て何かわなわなと口を動かし、やがて意を決したように声を発する。