伝説に散った龍Ⅰ





芹を引退する前、
そして父さんと母さん二人が亡くなる前、最後、と思って書いていた曲があった。



「ソラ」



…そんな題名の、バラード。



それが、書き終わっていざ出すぞ、という時に父さんと母さんが亡くなって、



新曲を出すなんて以ての外、
私は舞台に立つことすらなくなった。



そのままズルズルとその状態を引きずり、引退を発表。



“幻”なんて呼ばれるようになったのも、そのせいである。



『もしも手が届いたなら』



ソラは、もう二度と、戻れないであろうあの場所を思って書いた曲。



歌詞の一部に込めた意味。



もしかしたらアイツらには分かったかもしれなけれど、
私にはそのリスクが目に見えていなかった。



それほど、アイツらの存在は大きく、



私の脳にこびりついたまま、ということ。



消したくても消せない、



大事な「記憶」。



多分、きっと、
なによりも、大事な。



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