伝説に散った龍Ⅰ
Ⅰ/Starting Out
side芹那
――久しぶりに繁華街に来ていた。
卑しいネオンが明るく光るホテル街を視線の隅に写して
「…眩しいなあ」
虚しさを孕んだ私の息が、まばゆい光の下に消えていく。
私の憂鬱を掻き立てる、
憎らしいほど街は綺麗で。
「おいおい、これ…」
「聞き覚え、あるよな…」
「1回だけ正月暴走で聞いたんだよ、間違いねえ」
「…まさか、ほんとに」
何処からか聞こえてくるのは、
戸惑い一色の、男たちの声。
彼らはまさか、“女”がゼッツーに乗っているだなんて想像もしていないだろう。
少しの優悦に浸りながら愛車のエンジンを蒸かしたこの夜。
私にとって、少しだけ特別だったこの日。
――きっとこのときにはもう既に
全てが始まってしまっていたのかもしれない。