伝説に散った龍Ⅰ
「っはあはあ、っはあ」
長袖の制服の裾を捲り上げる。
拭った汗が道路に落ちる。
楕円形に染みたその余韻も
全部全部、今は虚しい。
「っ……ただいま」
私のただいま、に。
誰の「おかえり」が帰ってきたことは
きっと、あれ以来、一度もない。
父さんと、母さんがいなくなって。
私たち家族が、壊れた、あの日。
あれから今日まで、世那のいない、来那のいない家に帰ってくる、「今日」という日が、何度続いてきただろうか。
「にしてもっ、今日は疲れたなぁ」
色々、あったし。
伊織に元気になってもらおうと思ったのに、なぜか伊織がリンチされて。
そんで、私が咲良ボコって。
今思えば、あんなに怒りまかせに人を殴ったのも久しぶりなような、そんな気がする。