俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。



長い庭を通って玄関を開ければ
母さん趣味の吹き抜け玄関に、でかめのシャンデリア。

ここだけ一段と豪華だから、涼すけの足も止まって視線は常に上。


「おかえりなさい」

「ただいま。
これからクラスのやつと出掛けてくるから」


そして俺らにスリッパを出すのはこの家が建った頃から働いている家政婦のサユリさん。
父さんも母さんも名前で呼ぶから俺も自然と名前で呼ぶようになった。
日曜日以外はほぼ毎日いる。毎日毎日この家にいてすっげぇ楽しそうに家事をしている。


「……涼すけ、行くけど」

「あ…、あぁ!ごめん!!」


ずーっとボーっとしている涼すけを呼んでようやく俺らはリビングへ到着。


「俺服買いにいくって母さんに連絡しといたんだけど金って置いといてくれたかわかる?」

「あぁ、預かってるよ。ちょっと待ってね」


そういって、サユリさんは消えた。
この人は昔から俺の親のツレみたいで、ガキの頃から俺も知ってる。

だから、家政婦という感じは全くしない。
普通に母さんの友達が手伝いに来てますって感じ。


「お待たせ」

「あ、ありがと」

「……デート?」

「ち、げぇよ!」

「ふふ、大丈夫。
あの二人には内緒にしとくからっ」

「だからちげぇって!」


否定してんのに、なんかニコニコとしてリビングから出ていったから
俺も、ソファに座らせておいた涼すけのところへと戻った。


「わり、お待たせ」

「ううん。
…さっきのがお母さん?」

「あー、いや…家政婦さん?っていうか
母さんが仕事で一日中いないときに俺らの世話とかしてくれる人」

「へー…碧翔ってお金持ちだったんだねぇ…」

「……別に。それよりいくか」


ここに長くいても仕方ない。やることもないし
……途中、誰か立ち寄っても困るし…

金だけ受け取って財布に移し、俺らは玄関へと向かった。


シューズクローゼットには今日の朝試し履きしてしっかりセットした新しい俺のスニーカーがキラキラと待っている。


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