俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。



「え!碧翔その靴!!」


今、若いやつらの間で超有名なこの靴
高校生で履いてるやつは本当に数が少ないのに、かなり有名で憧れなこの靴を

女子の涼すけでも知っていて当然だった。


「へへ、いいだろ~
俺もうすぐ誕生日だからさ、兄貴がプレゼントでくれたんだよ」


この自慢の靴を履いて、陽気に家を出た。
この靴を早く履きたくて履きたくて仕方なかったから。


「へぇ、いいなぁ…
ってか碧翔ってお兄さんいたんだ?飛鳥くん以外に」

「……まぁ」

「知らなかった~
碧翔、あんまり家族の話しないから」

「いや、普通みんなしなくねぇ?
そんなこと言ったら涼すけの家族構成も知らねぇし」

「あはは、そっか。そうだよね」


高校生にもなって家族の話なんてなかなかしない。
なんならみんな一人っ子か?って感じ。中学ならそれなりに知ってたけど…

まぁ、小中一貫だった学校に通ってたから俺らは普通なんだけどさ


「私はねぇ、下に妹がいるよ
今受験生だから超機嫌悪いの」

「あー、勉強頑張る系?」

「ううん、頑張んない系。
でもそれでもやっぱ必死なんじゃん?落ちたらどうしようって。
私もそうだったし」

「あー…確かに飛鳥もそうだったかも…」


といっても俺らはそこそこの進学校なんだけどさ
俺は変な自信があったし、別に滑り止めでもOK!みたいな感じだったけど
飛鳥はめっちゃ勉強してたっけ…
俺より勉強できるのに…


「…碧翔んちはさ、親は何してる人…?」

「あー…」


なに、してる人って言われても…


「…言えない。内緒。」


アホな俺は、うまいことが言えなかった。
あんな家を見られたあとじゃ、適当に公務員っていうのも無理な気がした。
絶対官僚クラスだろって。


「うわー、怪しい」

「変なとこ興味もってんじゃねぇよ」

「でもみんな気になんない?あんな家だとさ」

「……家、呼んだことねぇし」

「え!?」

「俺も飛鳥も誰かを家に連れていったことはない。
それいったら兄貴も、ついでに妹もいるけど、誰も友達は連れてこない。
いろいろ聞かれたりするのもだるいし、なんか…いろいろめんどい家だから。俺んちは」


父親が俳優で、母親が歌手で、兄貴がモデルで…
はっきり言って、そんなのが家族にいたら誰も呼べない。……家族でどこに行けるわけでもない。

普通の家族っていいなってガキの頃すげぇ思ったし、いちいち家族のことを内緒にしなきゃいけないこの環境もだるい。
かといって、みんなが知ったらそれはそれでだるい。
『いいな』とか言われてもなんにもよくないし、みんなの”当たり前”がうちには全然ない。


「……なんか、ごめんね?」

「は?」

「なんか…家に行って、いろいろ聞いちゃって…」

「あぁ、別に。っていうかダメなら最初から連れてかねぇし。
でも、誰かにしゃべったら覚えとけよ」

「はいはい、誰にも言いませんよ!」

「言ったら俺も飛鳥もブチギレだからな!」

「そこまで言われたら逆に気になるでしょうが!!」

「言わねぇよ!」

「わかってるわよ!!」


そんな声が、この閑静な住宅街に響く。

……涼すけなら、別にいいと思った。
そんなことをベラベラとしゃべる女とも違うし、なにより…俺のことを、少しでも知ってほしかったから…



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