俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。



母さんは、いつの頃から俺らの母親だということを周りに隠すようになった。
……まぁ、担任は知ってるんだけどさ。それ以外は本当い知らない。

小学生の頃も、誰が親かわからないようにたくさんの大人を運動会に呼んでいた。
母さんも父さんもサングラスをして、他の大人は普通で……

そんなことを続けていたのに、朝陽のモデル活動開始。
最初は母さんも知らずに雑誌に載ったけど、知ってからはずっと反対。
芸能界に入ることはすっげー反対している。

……飛鳥も、バンドで芸能事務所からスカウトされているらしいけど、これも母さんが反対して受けたところは1つもない。


その理由は俺の両親が、芸能人だから。


俳優でドラマや映画、舞台とかで見る父さんと
歌手として、全国…世界のステージに立つ母さん

二人が芸能界で苦労してきたから、俺たち子供は絶対に芸能界には入れないと、兄貴が生まれる前から決めていたらしい。


父さんも、前に飛鳥に言ってた。
『こんなくそみたいな世界に自分から入ることはない』って。


それがどんな世界なのか、俺らにはまったくわからないことなんだけど……


それでも、兄貴は結局両親と同じ芸能事務所に所属し、ファッション雑誌やファッションブランドのモデルとして雑誌やテレビ、ファッションショー等で露出している。

母さんは反対しつつも、とりあえず大学卒業までは諦めてると、前兄貴から聞いたけど…


兄貴を見ていると、それが過酷な世界には思えない。
母さんだって父さんだって仕事は好きみたいだし。

それなのに、なんで反対するのか……


……まぁ、そんなんはどうでもよくて
そんな都合があるから、俺ら家族はみんな揃って出掛けることはほとんどない。
揃って出掛けるときは家族だけではなく、他の大人たちもいるときだけ。

母さんの事務所の社長だったり、親戚だったり……
そういう大人たちをフェイクとして使えるときしか、出掛けることはなくなった。


……まぁ、俺ももう高3なわけだし、妹の咲空も中学生だから、家族でお出掛けなんて年齢ではなくなってはいるんだけど。

…それでいまだに家族で海外旅行に年に一度は行ってるんだから、なんならましな方なのかもだけど…



「朝陽~、準備できから行こ。
碧翔、夕飯はもう作ってあるから、飛鳥とお父さんが帰ってきたら温めて食べてね」

「はいはい、わかったよ」

「受験勉強も忘れずにね」

「わかってるわ」

「んじゃ、いってきまーす
そんなに遅くならないからね!」


そういって、母さんと兄貴は出掛けていった。


渋谷だと、兄貴が変装してもバレるから、母さんが若者に変装する。もうこれがお決まりだ。
もうすぐ40代に突入するというのに、ミニスカート。
おいおい、と突っ込みたくなるわ。


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