俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。
とにかく、兄貴がモデルをやるために所属した母さんと同じ事務所と
兄貴が売れるまでは絶対に、父さんと母さんの子供ということは秘密にするとなっている。
親の七光りで売れてほしくない、と
これだけは絶対に譲れない、と
最低でも売れるまでは絶対に秘密にするとなった。
だから、兄貴と父さんが一緒に出掛けることはほとんどない。
ほとんどテレビに出ない母さんと違って、父さんはCMでもドラマでも映画でもテレビで見る機会があるから。
母さんの知名度はあるみたいだけど……
なんせテレビでは見ないから。
数年前の20周年の時はさすがに見たけど。
渋谷にでっかいポスターはってあったけど。
ほとんど人が名前を知ってるくらい、有名ではあるけど。
それでも、父さんに比べたらバレにくいかも…と俺でも思う。
その日の夕飯はまさかのすき焼き。
なんていうか、うちの親って稼いでるわりにあんま豪華なご飯って出てこないから、こんなんでも俺のテンションはあがる。
ちゃんと肉はいい肉だし。
予定通り、ちょっと遅めに帰ってきた飛鳥と、そのあと帰ってきた父さんとすき焼きは食べつくし、兄貴と母さんが帰ってきたのは22時過ぎだった。
「あお、ちょっといい?」
兄貴は帰ってきてすぐ、俺の部屋へ来た。
「あぁ、なに?」
「これ。あお、この前ほしい靴あるっていってたじゃん?」
兄貴の手には俺のほしかった靴のブランドの袋。
それを、俺に差し出している。
「・・・俺に?」
「いや、他にいないじゃん」
「え!まじで!?俺にくれんの!?」
「だからそうだって」
そういって俺に渡す兄貴だけど
この靴、人気過ぎて入荷してもすぐ売り切れだし
そもそも値段も10万以上するから高校生の俺には手が出なくて……
「…でもなんで急に、また」
めちゃくちゃ優しい兄貴だけど、俺のために今日並んでくれたのか?とか、こんな高い金出してくれたのか?とか不思議で仕方ない。
「もうすぐあおとあす、誕生日じゃん?だから一応俺から。
当日は俺撮影でいないからさ」
「あー、誕生日……
……でもよく手に入ったなー…」
もうなんか感動しすぎて言葉にならない。
だって本当に入手困難だし、なんなら再販のことだって知らなかったのに……
「あぁ、仕事関係の人にキープしてもらった。
再来週再販されるって聞いて。
あお、結構前から雑誌出てるの見て父さんにねだってるの見てたから」
「……モデルっていいな」
「は、なにそれ。
じゃあ、明日も学校なんだから早く寝ろよ?
おやすみ。」
「あぁ、これまじで感謝!
ぐっ、なーい」
もう、気持ち悪いくらいにやける俺に、綺麗に微笑む兄貴に手を振って
……っていうか、兄貴に手を振ったのすらいつぶり?って感じなんだけどさ
本当に嬉しすぎて俺爆発するんじゃないかって勢い。
早速袋から取り出して箱を開ければ、俺のサイズに、俺の欲しかった色。
試着して紐を合わせて、鏡の前でひとりまたにやける。
あのほしかった靴がここにある。……たまんなく幸せ。