俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。
「…”なんで言ってくれなかったんだよ、そんなに悩んでること。
俺いつも一緒にいたじゃねぇかよ”」
俺のセリフ。
初見なのに、父さんの読むセリフには、俺と違って色があった。
「こんな簡単なセリフ、簡単なセリフ
練習なんていらねぇくらいじゃねぇか」
「いやいやいや
俺素人。父さんプロじゃん」
「やるからにはしっかりやれよ」
父さんはそういって、俺に台本を返してきた。
やるからにはしっかり、か…
まぁそりゃ俺だけへたくそみたいな悪目立ちはしたくねぇよ、俺も。
やるならみんなの中に溶け込みたい。
…恥、捨てたい。
「あ、なら父さんが指導してくれよ」
「はぁ?」
「いいじゃんいいじゃん
俺が明日恥かかないように教えてよ」
「…別に俺が教えなくても
碧翔ならちゃんとできるよ。自信さえ持てばな」
父さんはそういって、俺の頭に手を乗せて先に部屋から出て行った。
「え、ちょ待って」
「あ?なんだよ」
「…なんか、せめてアドバイス…」
「…んー、
完全役になりきることじゃね?
それが一番簡単な道だと思うけど」
「えー…それが一番難しい気がするんだけど」
「でもたぶん、できたら楽しいよ。
飛鳥も朝陽も、楽しさ見つけたら頑張ってるんだと思うし。
その楽しさ見つけるために頑張れよ」
そういって父さんはそのまま風呂へと消えて行った。
楽しさ見つける、ねぇ…?
演技に楽しさ…
俺、そこまで頑張れんのかねぇ?