俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。



今更がたがた言ったところでもうここに母さんがいる時点で、帰らせるのは絶対無理なわけだし
諦めて俺も演劇部の集合時間までここにいることにした。

飛鳥のライブを見に来たっていう割にここにいるのかよ、母さんたちも…


ソファもあるし、テレビもあるし、空調も完璧で、ここはめちゃくちゃ居心地がいい。最高かよ。
俺ら演劇部や軽音部の控室は雑なくせに…


「そういや碧翔、演技うまいんだって?
昨日貴也から聞いたけど」

「いや別に。
昨日初めてやったしよくわかんね」

「役者やりたくなったらいつでも言ってくれよな」

「…社長さんはいくつになっても変わんねぇな…」


ガキの頃からそればっか。
朝陽にもずっとモデル勧めてたし、飛鳥もスカウトしてるし…
俺だけだよ、興味ねぇの…


「俺が拒否る前に、母さんが拒否するだろ」

「え、そんなことないよ?」

「え!?」

「碧翔ならいいんじゃない?」


い、いや…なんだそれ…
兄貴や飛鳥はダメで、なんで俺はいいんだよ…


「俺はダメなのに碧翔はいいの?」


ほら、兄貴も同じこと思ってんじゃん…


「うん。
夢持って芸能界来る人はダメ。
何回も裏切られて辞めたくなるから」


母さんのその言葉に、俺も兄貴もなにも言えなくなった。
”裏切られる”
あんなに楽しそうに仕事をしてる母さんから、そんな言葉が出てくるとは思ってなかったから。


「…別に美鈴は裏切られてねぇだろ」

「そりゃ私はね?」


そんな2人の会話を聞いてることしかできなかった。


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