俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。
***
俺の出番はちらほらあるものの、序盤ではメインになることもなく
ふらふらとしていた。
俺の親友役が犯人のこの舞台。
内容としては、俺の演じるヒロキと、親友のユウが一緒に経営している会社を陥れようとしたライバル会社の社長を、ユウが殺してしまう、というシナリオ。
俺が演じるヒロキも恨んでいる設定らしいけど、殺すのはユウらしい。
全員が仮面をつけているこの場で、誰が犯人なのか
それを見つけだすサスペンス。
でも仮面舞踏会というタイトルに込められたのは
みんながいい顔をして自分に近づいてくる。
そんな仮面を張り付けながら、誰かに裏切られ、誰かを裏切る。
そんな想いが込められてるらしい。
いい顔をしている裏側の本音を見つける
そんな物語だ。
このタイトルと内容を読んだ父さんが
「…まさに芸能界と一緒だな」
なんて言っていた。
「裏切るのが一番簡単で、一番楽しいからな」
そう言って、苦い顔をしていた。
その裏側を、ちゃんと見つけてあげることが一番大切なんだよな、って
儚い目をして、そんなことを言っていた。
今までどんなことがあったんだろうか、と思わされたけど
子どもの俺には全然わからない。
そんな過酷な現実を、まだ生きたことがなかったから。