俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。
「ふー、もう終盤だな」
「…そうだな」
1時間の演目もあっという間。
この劇ももうすぐ終わりを迎える。
「碧翔、出番」
「…おう」
最後の推理場面
俺はそこで立っているだけだった。
ここで俺にセリフはない。
探偵役のやつが話す推理を聞きながら
俺はボーっと、客席を見た。
ぎゅうぎゅうのこの会場に、俺のセリフはちゃんと届くんだろうか。
「…なんで、あいつの悪行は表に出ないのに
俺の罪はバレるんだろうな…」
そういって膝から落ちる犯人役のダチに、俺のセリフは始まった。
「ばっかじゃねーの。
悪行は全部バレるようにできてんだよ。
ただ、それが遅いか早いかってだけなんだよ」
客席に、俺はどう見えてるだろうか。
ちゃんと俺はヒロキになれているだろうか
そんなことが頭をよぎるけど
俺の口はすらすらとセリフを述べた。
「なにも殺すことはなかったじゃねぇかよ。
なんでそんな選択をしたんだよ!」
「…なんだよ、ヒロキ。
お前だって俺と一緒にあいつ恨んでたじゃねぇかよ!
今更いいやつ面してんじゃねぇよ!」
「だからだよ!なんでそんな選択する前に相談しなかったんだよ!
…俺も同罪じゃねぇかよ…なんでそんなに悩んでるって言ってくれなかったんだよ
いつも俺に本気でぶつかってきてたのに
どうして俺まで裏切ったんだよ…」
「…ヒロキ、ごめん…
一緒に頑張ってきたのに、裏切ってごめん…」
俺はそんなセリフを言って
ここで終わる
そのはずだったけど
『こんなセリフ付け足してみたらどうだ?』
と、父さんに言われ
俺のセリフはまだ続いた。