俺の好きな人は、俺の兄貴が好き。



「俺、裏切られたなんて思わねぇから。
騙されても、裏切られても
気づいてないフリして、俺はここにいる」

「…え?」

「だから」


俺はここで父さんの言われた言葉を思い出した。

『そのセリフな、うちの社長から聞いたセリフだけど
母さんが昔言った言葉なんだってさ。
社長に向けた言葉。
もし裏切られても、気づいていないフリしてそばにいる、って。

それだけ母さんには社長しかいなかったんだよ。
すっげぇ大事な人に裏切られて、傷ついた母さんの言ったセリフ。

その重さ、受け止めてから言えよ』


「…戻って来なきゃ、許さねぇから。
俺にはお前しかいねぇんだからな」


そういって、犯人役のユウに笑いかけて、

「…なら、ちゃんと迎えに来てくれよな」

「当たり前だろ」


そういって、この劇は幕を閉じた。



「ふーーー…」


終わった。…なんか、疲れた。
なにかを演じるって、こんなに疲れるんだな…


「碧翔、お疲れ」

「おう」

「最後、超よかったわ」

「急にセリフ追加して悪かったな」

「いや、いいと思うよあれ」


俺に、あのセリフの重さはまだわからない。

裏切られたことも、騙されたこともない。
…でも、このセリフは母さんが18歳の頃言った言葉だと父さんから聞いて

いったい母さんは、どんだけ過酷な人生を送ってきたんだって
ちょっと気になった。


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