暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
満月の夜〜出逢い〜
詩side

繁華街の路地裏の片隅から

か細い鳴き声…

「…ニャー」

≪ん?猫?≫

買い出し途中だった私が

鳴き声のする方へと足を進めると

ダンボールの中には真っ白な仔猫

小さな体を震わせながら

必死に鳴いている

≪こんなに震えて…≫

そっと抱き上げ胸元に抱きしめる

必死に生きようと

生きているんだと訴えるように

鳴く姿が昔の自分と重なり

心が痛むよ…

こんな所に放ってはいけない

この春から住み始めた

一人暮らしのアパートは

ペット禁止だったかな?

大家さんに聞いてみようか…

う〜ん…

せめて飼う事が出来なくても

里親さんが見つかるまで

面倒を見てもいいか聞いてみよう!

そうと決まれば早く連れてってあげないとね

その時ー

「うわぁ〜こんな所に可愛い子発見!」

「しかも金髪碧眼じゃん!」

いかにもナンパしますって感じの

男の子に囲まれてしまいました!

今はとにかくこの子を助けたいのに…

≪どうしよう〜!≫

声の出せない私は胸に抱えた猫を

必死に指差して首を振る

「え〜そんなのほっといて遊ぼうよ」

「そうそう!そんな汚いのは捨てられて
当然!さっ!行こう〜!」

肩に手を回されて身動きが取れない

必死に首を振るけど

あっと思った時には子猫を取り上げられてしまい、取り返そうとジャンプする

けど、背が高い男の子には

150センチの私は

到底敵わなくて

それでも必死に飛び続ける

≪返してッ!お願いします!!≫

声が出せないのが悔しい!

そんな私の願いも虚しく

子猫を投げるようにして

地面に叩きつけられた…

≪ひどい…どうしてそんな事するの!≫

彼等の間をすり抜けて

子猫の元に行こうとするのを

邪魔するように身体を押さえこまれ

行き場のない怒りと悲しみ…

そして何も出来ない自分に

涙が溢れて止まらない…

「あれあれ、泣いちゃった?
でも泣き顔も可愛いね〜」

「さぁ、邪魔者はいなくなったんだから
俺達といい事しよう〜ね〜」

腕を両側から掴まれて引き摺られ

どんどん子猫から遠ざかる

それでも必死に手を伸ばし続ける

もし声が出せたら助けを求められるのに

私にはそれが出来ない…

悔しい!

路地裏を照らすように

満月が見える

≪誰か助けて!≫

祈るように見つめた時…

満月を背に

子猫の側に立つ、ひとつの影

この際誰でもいいから

その子を助けて…

泣きながら手を伸ばし続けた時

子猫を片手に抱えたまま

こちらに向かって来る影

「そこで何をしてる」

低く、身体に振動するかのような

重低音の声

「あぁっ!誰だよテメー!」

私を押さえつけていた1人の男の子が

威嚇するように声を上げる

「お前らに名乗る筋合いはない…
何をしてるかに答えればいい」

威嚇する男の子には目もくれず

一歩ずつこちらへ向かって来る影

「あぁッ!舐めた口聞いてんじゃねーよ」

はじめに威嚇した男の子に続いて

もう1人の男の子も声を張り上げる

そして2人同時に殴りかかる

「チッ…雑魚が」

そう言って子猫を抱えたまま

回し蹴りひとつで2人を吹き飛ばしてしまった

一瞬の出来事だった…

≪すごい…この人は一体何者?≫

私に背を向けたまま

発せられたのは重低音の声

「ここは星竜の縄張りだ、散れ」

その言葉に反応した男の子達は

「ひぇ〜!!」と

悲鳴を上げながら立ち去った

それを私は呆然と見つめて固まる

≪縄張り?って言ってたよね?
そしたら私もここにいたら怒られる?≫

不安に思っていると

突然振り向いたのは重低音の声の人

満月の光で顔は良く見えないけど

すごく大きい…

180センチはありそう

私にも少し分けて欲しいなんて

呑気に考えていると

いつのまにか

目の前に立ち止まっていて

私をジッと見下ろす男の人は

無言で子猫を私に抱えさせた

≪良かった…ちゃんと息してる≫

子猫の安否を確認して思わず

笑みがこぼれる

本当に良かった…

この人が助けてくれなかったら

どうなっていたか分からない

お礼を伝えたいけれど

声が出せない私は

彼を見上げて笑い

彼の手を取って手の平に

文字を書く

≪ありがとう≫

もう一度見上げてお辞儀して

私は家路を急いだ


その後彼が

「見つけた」と呟いて

見つめていたなんて知る由もなかった


















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