暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
詩side

いざ教室へ来たものの

恥ずかしくて仕方ないよ〜!

律の背中からひょこっと顔を出して

みんなの反応を見る

どうだろう?似合ってる?

不安と少しの期待を胸に前に出てみた

視線の先に居るクラスのみんなは

何故か顔が真っ赤…?

楽しみすぎて興奮し過ぎたのかな?

それとも風邪!?

まぁ、仲良しでもさすがに一斉に

風邪を引くのはないか?

あ、星竜のみんなはこの格好

見てどう思うかな…

律はすっごく似合ってるよって言って

くれたけど…

小走りで近付いてみんなにところへ

来てみたんだけど

みんなも顔が真っ赤にして無反応…

誰か何か言って〜!

そっと窺い見ると…

うわぁ〜みんなすっごく似合ってるよ!

特攻服もカッコイイけど

今日はまた格別にカッコイイね!

北斗と錬はホストで奏は執事…

奈留はどこぞの国の王子様みたいな

騎士で、冬は紋付き袴

カッコイイ人は何を着ても様になるね〜

こりゃモテるはずだね、うんうん!

それに比べて私は…

そんな私にみんなは温かい言葉をくれる

「詩、すげぇ似合ってる」

北斗のその言葉を筆頭に錬、奏、奈留、冬

「すんげぇ可愛いぞっ!」

「うん、すごく似合ってるよ。
変な事されそうで心配だなぁ」

「詩ちゃん、可愛い〜!!
しかも猫耳も似合いすぎ〜!
オオカミから守らなきゃっ!!」

「………似合ってる」

恥ずかしい事この上ないけど

似合ってるって言ってくれて

自然と笑顔になれた

≪みんなもすごく似合ってるよ!
カッコイイ!
いっぱい楽しもうね!≫

恥ずかししいのは変わらないけど

こういうのは楽しんだもん勝ち!

だから、めいいっぱい楽しもうね!

そんなこんなでいざ開店

開店と同時にすごい人、人、人

あっという間に教室は人で埋め尽くされて

バタバタと動き回る

私は話せないけど、接客係に任命されたから

胸元のプレートに

≪私は話せないのでお話は出来ませんが
楽しんでいって下さいね!≫

と書いてぶら下げて

注文を取りに行ったり運んだりと

息つく間もなく走り回ってます!

クラスの男の子は女の子達に夢中で

北斗達は何故かすっごく不機嫌…

どうしたんだろう?

さっきまでは笑顔だったのに…

少し様子を伺ってたけど

何となく理由が分かった

それは、きっと…

「キャー!北斗様カッコイイですぅ!」

「奏様の執事姿、すごくお似合いですね!
お写真撮らせて下さ〜い!」

星竜のみんな目当てで来る女の子達に

褒められたりベタベタ触られたりと

恋する女の子達は目をキラキラ…

ではなくてギラギラさせて

まさに獲物を捕らえるハンターみたい!

いつもニコニコの奈留ですら

ぶすっとしちゃってるし

錬は口元は笑ってるけど

目は笑ってない

冬に至ってはブリザードの如く

冷たい視線で無口…

まぁ、冬は元々無口だけどね!

それでも気にならないのか

女の子達は果敢に攻めていく

どんな態度を取られてもめげないのは

ある意味尊敬できるなぁ〜

女の子パワー恐るべし!!

そんな光景を遠目に見ながら

心の中で拍手をしてると

ふと視線を感じて

キョロキョロ周りを見渡してみる

すると、バチッと1人の男の子と

目が合った

見た目はどこにでもいそうな普通の男の子…

黒髪に眼鏡、服装は紺色の学ラン

でも目は私と同じ青い

その子は何をするわけでもないけど

私を見て不気味に笑う姿に

背筋に冷や汗がつたった…

こんな感覚は“あの時”以来だ

そう…私が孤児院に預けられるまでの

私の地獄のような日々の時と同じ…

身体が震える

指先は凍える程に冷たい

なのに身体中から汗が吹き出し

もう、立っているのも辛い…

誰か…誰か、助けて…

震える身体を抱きしめる私に

ニヤリと笑う男は

そのまま人混みに紛れて消えてった

その瞬間、金縛りから解けたみたいに

私はその場に崩れ落ちた…

こ、怖かった…

そんな私に気付いた北斗達は

私を囲むようにしゃがみ込んだ

「詩!どうした!?何があった?」

大きな温かい手で頭を撫でてくれる

北斗の声が聞こえる

「詩ちゃん、何があったの?」

奏の気遣わしげな優しい声も聞こえる

「詩、だ、大丈夫か!?
どど、どっか痛いのか!?」

テンパってるけど優しく背中をさすって

くれる錬の声も

「詩ちゃん!顔が真っ青だよ〜!
こんなむさ苦しいとこに居たから
気分悪くなっちゃったんだよ〜!」

心配してくれながらがっつり

毒を吐く奈留の声も

「…平気か」

無表情だけど、でもどこか

不安そうな冬の声も

みんなの声も聞こえるし

見えてるのに

私はあの日々が頭でリプレイしていて

ただ一言、声にならない声を紡ぐ…

≪助けて…≫と口を動かした

たった4文字の言葉

それがみんなに伝わったかどうかは

分からないけど

みんなの顔は困惑、動揺、悲しみ…

私を心配してくれてるってことだけは

分かった

助けてと願ったのは私だけど

こんな顔にしたかったわけじゃないのに…

みんなには、いつも笑顔でいて欲しいのに

どうして私はいつも誰かの笑顔を

奪ってしまうんだろう…

いつから、いつから…

そうだ…

私が生まれた瞬間からだ

私が生まれたから

周りから笑顔が消えたんだ

あの人が言ってたもん…

孤児院に行くまで何度も何度も

殴られたり蹴られたりしながら

何度も聞かされてきた

“私がみんなの笑顔を奪った”って…

“私のせいでみんなが不幸になる”って…

だから、みんなをこんな風な顔に

してしまったのも私で

みんなを不幸にしてしまうのも私…

≪ごめんなさい…ごめんなさい…≫

届かない声を紡ぎ続ける

頬に流れる雫をそのままに

私は意識を手放した……















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