暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
謎の男の正体
詩side

う〜ん…ここどこだろう?

真っ暗で何にも見えないよ〜こ、怖!!

みんな〜、律〜!

怖すぎるぅ〜!!



ー痛いよ〜痛いよ〜

ーやめて、パパ…



ん?誰かの声が聞こえる…

ねぇ、誰かいるの?

あ、あんなところに女の子だぁ!

走って近付いて見たものの

そこに居たのはーーーー




小さい頃の私だ…

どうして…?

てことは、これは夢?

あれ?夢って眠らないと見れないよね?

私、寝てるの?

でもさっきまで文化祭で

バタバタしてたと思うんだけど〜

なんで〜〜!?

『おねえちゃん、だあれ?』

≪え?私?
あ…わ、私は詩っていうの≫

私が名乗るとパァーッと笑顔になって

抱きついてきた

『わたしもねぇ、うたっていうの!
おんなじだねぇ〜!』

≪本当だねぇ〜!おんなじだねぇ!≫

こんなキラキラした笑顔で

話せてるって事はまだ小学1年生だ

孤児院に捨てられたのは

このもう少し先だった気がする…

この頃はパパからの暴力を受けながらも

それでもまた笑ってくれると信じてたから

無邪気に笑っていられたけど

捨てられる前に児童福祉司から

聞かされた真実と

孤児院に捨てられた事実に

心も身体も限界を超えてしまって

小学2年生に上がる前に声を失った

確か過度のストレスによって

声を失う“失声症”と診断されたんだった

今のこの子…いや、違うか

この頃の私は何も知らない女の子で

親からの暴力に耐えながらも

それがどういう意味を持つものかを

知らずにいた無知な私だ…

あと少ししたら声を失って笑顔も

封印するなんて思ってもないよね…

数えきれないほどの悲しみや苦しみを

経験してきた

離れて行ったお友達…

好奇の目と同情…

喋れない事を理由にしたイジメ…

それでも笑顔で前だけを向いて

歩いて来れたのは支えがあったから…

親代わりになってくれた園長先生が

居てくれたからだよね…

たった1人だったけど

その存在があったから今の私が居る

そして、沢山のお友達が出来た

北斗、奏、錬、奈留、冬、律

星竜のみんなやクラスメート

過去を変えることは出来ないけど

この先素敵な出逢いがあることは

伝えてもいいかな?

≪うたちゃん、これから先悲しい事が
沢山あるけど…
でもそれと同じくらい、ううん…
それ以上に素敵な出逢いがあるから
笑顔でいてね!≫

不思議そうに首を傾げながらも

笑顔で大きく頷いた小さな頃の私

『うん!わかったぁ〜!』

そんな昔の私に、私も笑顔で頷いた

その瞬間、暗闇が晴れて

辺りは光に包まれ、そして…




小さな頃の私との再会から

今いる現実の世界に戻ってきた

目覚めた私の目に写るみんなに

笑顔が溢れた

そんな私を見てみんなに安堵の表情が

浮かんで、そして…

いつもの大好きな笑顔に包まれた

うん!やっぱりみんなの笑顔は

心が温かくなるぅ〜!

北斗はそんな私を見つめて

優しく笑って頭を撫でてくれた

「身体は平気か?痛いところはないか?」

笑顔で大きく頷いた

2人で笑い合っていると…

「……コホンッ
僕たちが居る事も忘れないでね?」

「…チッ」

ん?この声は…奏?

私は首を傾げ、北斗は舌打ち!?

さっきまで優しく笑ってたのに

急に超不機嫌なんですけど〜!!

奏はニコニコ…

北斗は激オコだ…

とりあえずここは北斗の機嫌を

戻そう!

ナデナデ……

頭を撫でてあげると

少しだけ頬を染めて口角を上げた

北斗にひと安心です!

「北斗の機嫌も良くなったとこで!
詩、急に教室で倒れたのは覚えてっか?」

「僕たちが気付いた時には
顔が真っ青で震えてたんだよ〜?
心配で声掛けたら、途端に気を
失っちゃったから、すんごく
びっくりしちゃったんだよ〜!」

錬と奈留から声が聞こえて

そちらに目を向けて考えてみた

ん〜…

北斗に手を借りながら起き上がると

膝の上に乗せられた私は

あの時のことを思い出してみる

「詩にとっては思い出すのは
怖いことかもしんねぇ…
けど、あんな風な詩をもう見たくねぇんだ。
気を失って倒れるなんてよっぽどだ。
傍に俺らがいるから
ゆっくり今日の出来事を思い出してみてくれねぇか?」

私の手を大きくて温かな手が包む

北斗の手だ…

この手は私にとって魔法みたいな手なの

気持ちを落ち着かせてくれるし

安心で身体中が包まれるの

どうしてかなぁ?

って、そうじゃなくて!

今日の出来事を思い出さなきゃだよ!

北斗達に見守られながら

学校に着いてからの出来事を

一から頭に浮かべてみた

更衣室でメイド服に着替えて

律と教室に向かって

恥ずかしかったけど、みんなに

見せに行って、みんなと一緒に

バタバタしながらも楽しんで

接客してたよね〜

それから、それから…

あっ、人混みに居る男の子と

目が合って…………

ーゾクッ

あの目と笑みを浮かべた瞬間

肩が自然にピクリと動いてしまう

瞬間、みんなの眉間に寄った事に

気付かなかった…


あの時の不気味な笑みが

両親と重なって身体が震える

私の異変に気付いた北斗に抱き締められて

震えは少しずつ治っていくけど

それでも、やっぱり怖いよ!

ぎゅっと目を瞑り、北斗の胸に

しがみつく

そんな私を強く、けど優しく

抱き締めてくれる北斗に

安心と少しのドキドキを感じながら

目を瞑り続けた







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