暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
詩side

あの後、昼前に起きた私と北斗は

幹部室でもうすぐ始める抗争を前に

みんなと待機中です!

でも…いつも元気な錬や奈留も

今日ばかりはすっごく静かで

幹部室にはいつもの和やかさは

一切なくて、少し緊張するなぁ…

静まる部屋にカチカチと鳴る時計の音が

やけに響いてるし、ここは私が

気の利く事言えたらいいんだけど

声が出せないからなぁ〜

こういう時、どうするのが北斗達にとって

いい事なのかが私には分からないよ…

そんな時、静寂を裂くようにドアが

ノックされた…

そこには凛くんが居て

「失礼します、北星が来ました」

と一言告げて扉を開けてくれている

そして、北斗をはじめ

みんなが静かに立ち上がり

私も北斗の膝の上から降りて

みんなに続き外に出ると

1階には星竜のみんなと対峙するように

島田さん率いる北星が倉庫内に入ってきた

文化祭以来の再会に背筋がゾクッとして

思わず北斗の特効服を掴んだ

気付かないうちに震えてしまっていた

私の手を

北斗の大きくて温かい手が大丈夫だと

言うように重なって包んでくれた

「俺らは絶対に勝つから大丈夫だ。
あんな奴に詩は渡さねぇから
心配すんな」

見上げた北斗に大きく頷くと

「行ってくる」

と、私と凛くんを残してみんなは

階段を降りて行った

1階に降りて行くみんなに私は

心の中で≪みんな無事でいて≫と願った

倉庫内には星竜のみんなと

北星の人達がわんさかと居て

満員電車か!って思わず

心の中で突っ込んだのは、秘密!

それにしても…

下から感じるピリピリした雰囲気が

2階の私の元にも届いてくる

今まで生きてきて、こんなにも

息苦しさを感じるのは“あの時”以来、かな…

あの時と今では状況は違うけど

この雰囲気は少し苦手、というか怖い

私の不安が顔に出ていたのか

はたまた、この状況に慣れているからなのか

分からないけど、隣に立つ凛くんの

言葉が私を支えてくれた

「詩さん、族に関わればこの状況は
日常的に起こり得るんです。
いくら強くても無傷では済みません。
けど…俺達には守るべき人がいる。
それが時には弱みにもなるんですけど
強みにもなる。
守り抜きたい人の為に戦いぬくこと…
そして、必ず勝つ。
詩さんがいる限り、星竜は
負けませんよ。
だから、信じて待ちましょう!」

凛くん…

真剣な表情を浮かべて下を見つめる

その凛とした姿に私は大きく頷いた

その時、下から聞こえたのは

初めて聞く島田さんの声で

その声は不気味な笑み同様に

背筋がゾクッとするような粘着質な声

「いや〜、本当に可愛らしい姫だね。
早く僕の所に連れて帰りたいよ」

私に視線を向けて話す彼の瞳に

今にも座り込みたいほど震える足を

踏ん張り、逸らすことなく見つめ返した

私が弱気になったら駄目だ

星姫として、しっかり前を向いていなきゃ!

私はみんなを信じてるんだもん!

ノートに大きく書いた文字を

踊り場まで降りてみんなに見えるように

掲げた

≪みんなを信じてるから!≫

それを見たみんなに笑顔が溢れて

北斗は真剣な表情を浮かべながら笑った

「当たり前だ。
大人しく待ってろ」

奏も錬も奈留も冬も笑顔で頷いたから

私も笑顔で頷いた

そして、お互いの総長の掛け声で

星竜と北星の戦いが今、始まった…

「さぁ、みんな姫を奪うよ〜」

「お前ら!絶対勝つぞ!
思う存分暴れろ!」

大きな倉庫内に響く、人を殴る音や

呻き声は耳を、目を塞ぎたくなるほどに怖い

だけど、私の為に勝つと言ってくれた

みんなを信じてるって約束したから

目を逸らしちゃ駄目なんだ!

そして最後には笑顔で迎えるんだから!

気付けばお互いの幹部と総長だけが

倉庫の真ん中に距離を保って立っている状況

そこからの勝負はあっという間だった

流れるように隙のない動きと

特効服を靡かせながら戦うみんなが

すごく輝いて見える

全国ナンバー1を守り抜いてきたから

強いんだろうなって思ってたけど

ここまで強いなんて…

息切れを起こしている北星に対して

星竜のみんなは息切れすらしていないし

傷ひとつ折ってない

改めて星竜の強さが分かった気がする

す、すごい…

感心している間に決着はついていた

片膝ついて北斗をはじめ星竜を見る

島田さんが自嘲の笑みを浮かべた

「あぁ〜…やっぱり強いね、星竜は。
僕らの負けだ。
僕らは今日をもって解散するよ」

そんな島田さんに不敵な笑みを浮かべ

北斗は口角を上げた

「当たり前だ。
俺らには大切な姫がいるからな」

北斗の言葉にフッと笑みを浮かべて

立ち去ろうとする北星の人達に

私は思わず走り出していた

私の突然の行動にみんなが声を上げたけど

私は背を向けて去ろうとする島田さんの

腕を掴んだ

驚いたのか目を見開く島田さんは

私をキョトンとした顔で見下ろしていて

後ろからは、みんなの焦る声が聞こえる

「「「詩さん!?」」」

「「「姫!!!」」」

「詩!何してやがる!離れろ!」

北斗の焦った声も聞こえてきたけど

島田さんの腕を掴んだまま私はみんなを

振り返り笑顔を見せた

そしてもう一度島田さんを見つめてから

手を離してノートに想いを乗せる

その間、島田さんはジッと動かないで

居てくれた

そして私は島田さんの目線にノートを掲げた

≪この戦いにどんな意味を持って
臨んだのかは私には分かりません。
私はまだこの世界に入ったばかりだから
詳しい事は分からない。
だけど、負けたから解散っていうのは
納得出来かねます。
北星も私達星竜と同様にそこは貴方達の
大切な居場所でしょう?
私はその居場所をこれからも大切に
して欲しいです。
北斗を慕っているみんながいるように
島田さんを慕ってくれる人達が居ること…
忘れていませんか?≫

暴走族に入る全ての人ではないかもしれない

だけど、居場所がなくて

そこを拠り所にしている人もいることを

私はここに来て知ったの

だから、負けたから解散…なんて

すごく寂しいの…

やっと見つけた居場所を失くすのは

光を失うことと同じだから

ノートに目を走らせていた島田さんは

何を思ったのか急にお腹を抱えて

笑い出しちゃった!!

笑われるような事書いたかなぁ?

首を捻る私を無視して未だに笑い続けてる

島田さんに、少しムッとしちゃう!

プイッとそっぽを向く私と

笑い転げる島田さんに

倉庫内が呆然としている…

というか、頭にハテナが飛んでいる

私も全然分かんないですけどっ!!

目尻の涙を拭いながら

私の頭に手を置いたのは島田さんだ

「君はすごく不思議な姫だね。
自分を奪うって言って抗争を
仕掛けてきた相手に
こんな事言うなんて…
でも、これで君が星姫になった理由が
分かった気がするよ。
星竜が羨ましいな」

そう言って頭を撫でた島田さんは

あの時の不気味な笑みじゃなくて

とても穏やかな笑顔…

きっとこれが彼の本当の姿なんだよね

それが見れて嬉しくて

私も笑顔を浮かべた…

その時…背後からものすっごく

怖〜い視線を感じて、ゆっくり振り返った

あ………

おでこに青筋を立てながら笑って

近付いてくるのは北斗で

その後ろでは奏や錬、奈留や冬が苦笑い

そのまた後ろの下っ端のみんなは

顔を真っ青にしてアワアワしてる

これって、もしかしなくても

ヤバイ感じ!?

私の頭の中で警鐘が鳴り響く

そして咄嗟に島田さんの背後に隠れた…

「ちょ、ちょっと!?
僕を盾にしないでよ〜!」

焦った声を出す島田さんを無視して

ぎゅっとしがみついていると

重くて低い北斗の声が聞こえて

恐る恐る背中から顔を出してみた

うん、すっごく怖い〜!!

笑ってるけど目が笑ってないもん!!

「詩、早くそいつから離れろ。
そんでこっちに来い」

そう言って島田さんの背中から

引き剥がされた私は北斗に

抱き締められた

怒らないで!の意味を込めて

腕の中から見上げると

大きな溜め息が倉庫内に響いた

北斗の後ろから顔を出した奏は

私が握り締めたノートをそっと取って

目を走らせていく

「詩ちゃんらしいね」

にっこりと笑う奏の後ろから

ノートを取り上げて回し読みする

星竜のみんな

そして奏と同じように笑って頷いた

「「さすが詩さんっすね!!」」

「やっぱり詩は優しいよな!」

「本当本当〜!」

「…(コク)」

錬や奈留、冬も笑顔だ

だけど…北斗は未だにブスッとしてて

拗ねた子供みたいだよ〜

島田さんを睨みつける北斗の目線を

ぶった斬るようにノートを滑り込ませた

奏に舌打ちをしながら目を通す北斗は

またまた大きな溜め息…

もう!なんで溜め息つくの!!

私、悪い事してないもんね!

ぷうっと頬を膨らませて北斗を

ジト目で見て怒ってますアピールを

してやりました!!

すると、なんで事でしょう!

さっきまで拗ねてた北斗は

影も形もなくて優しく笑ってる!?

お目目がポロリしちゃいそうだよ!

首を傾げる私に聞こえたのは

優しい北斗の声

「族の世界には色んなルールが存在する。
勝ったら存続、負ければ解散っつう
詩からすれば納得出来ない世界だ。
けど、それに囚われてばっかだったら
詩の言う通り居場所を失くす奴が
沢山出てくる。
それは俺も星竜も望んじゃいない。
島田、詩に免じて解散は無しだ。
だが、2度はないぞ」

島田さん率いる北星の皆さんに向けた

私達星竜の想い…届いて欲しい

北斗の腕の中でクルリと振り返り

笑顔で見つめる

「随分と姫に甘いんだね、流川は。
だけど、その言葉素直に受け取らせて
貰うよ。
詩さんもありがとう」

そう言って北斗と島田さんは

固い握手をして、抗争は無事に終了した













































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