暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
詩side

ん〜…なんだか頭が痛いし瞼が重い

ゆっくりと目を開けると何故か

錬に膝抱っこされていてプチパニック!!

アワアワする私に気付かずに皆んなが

真剣な表情で話してて内容はちんぷんかんぷんだ

確か北斗の部屋の前で北斗が誰かに

好きだとか守るとかって言うのを聞いて

ショックで泣いた私を錬が支えてくれて…

ん?その後どうなったんだっけ?

でも未だに錬に抱えて貰ってるって事は

そのまま寝落ちしたの!?

何とも情けない…

そんな事をぼんやり考えていた時だった

幹部室の扉が突然大きな音を立てて開かれて

私の視界の端に北斗に抱き着く女の子が見えた

栗色のセミロングの髪をポニーテールにして

色白でスタイルの良さげな可愛い子…

もしかして、この子が穂花さん?

その瞬間胸がギリギリと音を立てた

「北斗〜!早速会いに来ちゃった!
今日からここに寝泊まりしてもいいんでしょ?
早く会いたくて急いで来たんだよ〜!」

ソファに座る北斗にべったりしがみついて

離れない穂花さんを引き剥がすことなく

甘やかすみたいに頭を撫でる北斗の姿に

胸がぎゅっと締め付けられて苦しい…

そんな私に気付かずに北斗は私に目もくれず

穂花さんを連れ立ったまま幹部室を出て行った

そっか…やっぱり北斗は穂花さんが好きなんだね

北斗だけは絶対離れて行かないって

思ってたんだけどなぁ…

たった半日で人の気持ちは変わってしまう

パパのように…

話せない私にうんざりしてなのか

そもそもその気持ちは私への同情なのかは

分からないけど

今更北斗に気持ちを伝えたって意味ないよね

こんなに苦しいなら気付かなければ良かった

諦めることには慣れてる

だから、私の気持ちは心から消さなくちゃ!

人を好きになる気持ちを捨てて来た私なら

きっと出来る

北斗…

私が男の子を好きになったのは貴方が

初めてで一生に一度の恋だったと思う

感情を失くしてしまった私に

好きを教えてくれた人なんだよ?

でも…忘れるからね

だから、穂花さんを大切にしてあげてね?

一度目を閉じて開いて

錬の袖を引っ張って起きた事を伝える

「詩…起きたのか?大丈夫か?」

ねぇ、錬…貴方はどうしてそんなにも

辛そうな顔するの?

いつも太陽みたいに明るい笑顔が見たいよ

だから笑って?

そんな意味を込めて私は精一杯微笑んだ

錬に支えて貰いながらゆっくり起き上がると

奏も奈留も冬も、いつもの元気がない

私が泣いちゃったから心配かけたのかな?

でも大丈夫だよ?

私、もう泣かないから

だから、笑って欲しいな

皆んなの笑顔は私の元気の源なんだよ?

だから、笑って?

皆んなに視線を送って精一杯微笑んだ

皆んな驚いた顔してる!

ふふふ!そうだよね!

泣き疲れた私が起きてすぐにニコニコしてたら

驚かせちゃうのも無理ないよね

しかもピクリとも動かないなんて

なんだか変なの〜!

ふふふっ、普段から元気いっぱいの皆んなの

この表情はすっごくレアだ!

堪え切れなくて笑う私を見て

皆んなに笑顔が広がった

ツキツキとまだ胸は痛むけど

皆んなの笑顔が私にパワーをくれるから

私も精一杯笑顔でお返しだ!

ポケットからメモを取り出して皆んなに見せた

≪皆んなに心配かけちゃったみたいでごめんね。
でも、私は大丈夫だよ!
皆んなの笑顔が私にパワーをくれたからね!
ありがとう!≫

メモを覗き込んだ皆んなは笑顔で頷いた

「僕から北斗の事で話があるんだ。
きっと詩ちゃんは北斗の部屋に入る前に
何かを聞いたと思うんだ。
だけど、それは僕と北斗の幼馴染の女の子に
向けて言った言葉で深い意味はないんだ。
だから気にすることはないからね?」

奏の言葉に首を傾げる私に丁寧に説明してくれた

穂花さんは、北斗と奏の幼馴染で

小さな頃にお父さんから度々暴力を振るわれて

その度にある合言葉を呟いて落ち着かせてきたこと

それは「好き、守る、ずっと一緒」って言葉

それを聞かせると穂花さんは安心するんだと

そして、最近までは落ち着いていた暴力が

また始まり出したこと

穂花さんが落ち着くまでここに寝泊まりすること

だけど、ここに居る皆んなは反対してること

だから、北斗の穂花さんへの言葉は

深い意味はなくて落ち着かせる為だけのものだってこと

「だから詩ちゃんは何も気にしなくていいよ」

笑顔の奏が頭を撫でてくれた

そして錬も奈留も冬も頷いた

穂花さんの話を聞いて辛いんだろうなって

思う反面、羨ましいって思っちゃう私は

悪い子かもしれない

だって、助けてくれる人が傍にいるんだもん

私には誰も居なかったから…家族も友達も…

だけど、皆んなが居てくれる今は

すっごく幸せだから

北斗が傍に居てくれなくても…

それに星竜の皆んなも居てくれるから大丈夫!

だから、生まれて初めての好きは

思い出として大切に胸にしまっておこうと思う





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