暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
詩side

涼風さんのお家で朱里ちゃんとお絵描きするうちに

少しだけ心が凪いでいく気がする

それに此処に居る涼風さんも日向さんも

あの頃と同じ温かい瞳で見守ってくれてるからかな

心がポカポカする

この感覚、凄く懐かしい……

私は1人じゃないんだよって気付かせてくれる

私は本当に幸せ者で恵まれてると思う

あそこを離れると決めたけど

穂花さんは大丈夫かなぁ……

暴力は振るう側も振るわれる側も

何かしらの形で傷を負って何かを失うから…

だけど、私には支えてくれる人達がいる

穂花さんにとっては、それが北斗なんだよね

そういう存在がいるだけで安心できるし

落ち着ける

星竜の皆んなは優しくて温かい人達ばかりだから

きっと安心して過ごせるはず

私のようになって欲しくないなぁ……

いつの間にか物思いにふける私に

天使のように可愛い声が聞こえた

「うたおねいちゃん、どったのぉ〜?
まだいたいいたいのぉ〜?」

大きなクリクリお目めの朱里ちゃんが

下から覗き込んで心配そうな表情を浮かべている

子供ってどうしてこんなにも人の表情に

敏感なんだろう?

まだ2歳なのに凄い!!

こんなに小さな存在の朱里ちゃんにまで

心配掛けてるなんて、私ダメダメだなぁ〜

北斗を想えばまだ胸がキリキリするけど

笑顔で居れば…時間が経てば…

きっと忘れられるよね?

恋の始まりも分からない私に

終わり方なんて分からないけど

今はとにかく朱里ちゃんに大丈夫だと伝えないと!

握りこぶしを作って朱里ちゃんに笑顔で

大丈夫だと伝えた

「ほんとぉ〜?
じゃあ、おえかきしよう〜!
わたち、うたおねいちゃんのおかおかくっ!
あとねぇ〜、ママとパパも!
みんな、なかよしさんだからっ!」

フンフンと鼻歌を歌いながら

真っ白の画用紙にクレヨンで嬉しそうに

お絵描きする朱里ちゃんに自然と笑顔になれる

ふふふ!本当に可愛いなぁ〜!

2人でお絵描きに夢中になっていた時

玄関からドタバタと音がして振り返ると

そこにいたのは涼風さん同様に

あの頃お世話になった絵留さんがリビングの

入り口に居て、私を見つけるなり突進したきた!

「詩ちゃ〜ん!!元気だったぁ??
絵留だよぉ〜!
相変わらず可愛い〜!!私の天使〜!」

わわわっ!?絵留さん!?

見た目はほんわかしてるのに

性格は涼風さん同様にさばさばしていて姉御肌

そしてかなりの毒舌キャラなのだ

此処に居る人達同様に優しくて温かい人で

大好きな人の1人だ!

でも流石に苦しいかもっ!!

息苦しさを覚え始めた瞬間……

涼風さんの絵留さんを抑える伝家の宝刀

雷チョップが炸裂した

「絵留!!詩ちゃんを絞め殺す気!?
久しぶりに会えたのが嬉しいのは分かるけど
自分の馬鹿力の加減を考えなさいよ!」

「痛いっ!!
涼風こそ馬鹿力じゃな〜い!
私の脳みそ潰れちゃうじゃない!
っていうか!!
こんな可愛くて小さくて天使の詩ちゃんを前に
我慢出来る訳ないじゃないっ!」

このやり取り…なんかあの頃みたい

無事?絵留さんの腕から解放された私は

朱里ちゃんを抱っこする日向さんと

顔を見合わせて、コッソリと笑った

その間もぎゃあぎゃあと言い合う2人を

止めるのは、もちろん日向さんだ

これもあの頃からのお決まりみたいなものだ

「おいおい、そろそろやめたら?
せっかく詩ちゃんがいるのに……
なぁ〜、朱里〜?」

日向さんの声にキョトンとした表情を浮かべる

朱里ちゃんも2人の言い合う姿に一言…

「ママもえるちゃんも、うりゅさい!
ちぇっかく、うたおねいちゃんとおえかき
してたのにっ!
めっ!!」

頬をめいいっぱい膨らませ、ぷりぷりして

猛抗議してる

しかも…めっ!!って……

むぅ〜!!可愛い過ぎるぅ〜!!

朱里ちゃんの声にピッタリと言い合うのを

やめた2人は揃って、ごめんなさいをしていた

もしかすると、この家では朱里ちゃんが

1番の強者かもしれない

朱里ちゃんは、どんな大人になっていくのかな?

此処に居る人達みたいに優しくて温かい

素敵な人になっていく気がする

未来の光景を浮かべて自然と頬が緩む

願わくば、その時私も同じように

素敵な人になれてたらいいな…

妄想にふけっていると涼風さんの声が聞こえて

目を向けた

「詩ちゃん、これからアイツらが来るの。
もし嫌なら帰って貰うけど
詩ちゃんの事話していい?
穂花は詩ちゃんとほんの少しだけ境遇が似てるの。
こういう事は比べる事じゃないんだけど
穂花はどこか…考え方が甘いのよ。
何かあれば逃げる、そして甘える。
それが全て悪いとは思わないけど
周りを巻き込んで誰かを傷付けるのは間違ってる。
自分で何かをする前から放棄して
ただ周りにもたれかかるのよ。
同じ境遇でも詩ちゃんとは正反対!」

前のめりの姿勢で勢いよく話す涼風さん同様に

絵留さんも大きく頷き同意した

「私も同じ意見よ!
行動を起こす前に、自分の中で色々と考えて
思う事もあると思うんだけど……
あの子は詩ちゃんとは全然違うの。
もちろん、人間誰だって同じな人なんて
1人もいないの。
境遇も考え方も外見も性格もね?
それが当たり前だから比べるのは違うんだけど
う〜ん?なんて言えばいいのかなぁ〜?
とにかくあの子は同じ境遇にいながら
今の自分にも周りにも甘いのよね……
そうする事が当然だと思って行動してる。
だけど……
詩ちゃんは違うわ。
傷付けられて辛いのに、傷付けた側の事も
考えて行動してる。
それは出来そうで出来ない事よ?
詩ちゃんは常に自分よりも周りを見てる。
優しくて温かくて強い…
弱音もわがままも全て飲み込む所があるでしょ?
詩ちゃんの元々の性格もあると思うけど
常に自分を律して周りの人間に気を使う」

「そうだね……
詩ちゃんは昔も今も変わらない。
自分には凄く厳しいのに、周りには凄く
甘くて優しい。
……うん、優しすぎるんだよね。
背負わなくていい事も、自分の事のように
考えて感情移入する……
常に誰かの為に動いて、自分を押さえ込んでる。
だけど、たまには自分の事を1番に動いても
いいと思うよ?」

絵留さんの言葉を聞いて

今まで黙っていた日向さんも口を開いた

3人に優しい瞳を向けられると、少しこそばゆい

それに私は3人の言うような大層な人間じゃない

確かにあの頃は辛かったけど

それを過去の事として受け止めようと思えたのは

この人達が支えてくれたからだもん

それに今も十分甘えさせて貰ってる

あそこに居るのが辛くて逃げるように

此処に来たし……

受け止めようと思っても受け止めきれなくて

泣いて縋ってしまった

北斗からも皆んなからも、星竜からも

姫としての役割や責任からも逃げた

全部自分のわがままだよ……

そんな私を優しい…なんて、勿体ない言葉だよ

知らず顔をうつ向けて居た私は首を横に振った

そんな私を温かくて柔らかい感触が包んだ

「詩ちゃんは本当に自分に厳しいわね。
だけど私達の言葉に嘘はひとつもないわよ?
自分が1番辛いはずなのに、私達の誰かが
少しいつもと違うだけで心配してくれたりして
それでどれだけ癒されたか……

ね?絵留も日向もそう思うわよね?」

「もっちろん!」

「そうだね」

涼風さんも絵留さんも日向さんも……

本当に大好きだ

声を大にして伝えたいな…ありがとうって……

だけど、それは無理だから

今の自分の精一杯の笑顔で頷いた

涼風さんの腕の中は、変わらず温かいなぁ

あの頃を思い出していると

更にその上から温かい腕が私を包んだ

「涼風だけズル〜イ!
詩ちゃんは私の天使なんだから
私もギュ〜する〜!!」

いつもの凄い力でギュウギュウされて

私と涼風さんは同時に呻いた

ぐ、ぐるじぃ〜!!

そんな私達を見ていた日向さんは

朱里ちゃんとコソコソ内緒話

そしてそれが終わると日向さんはニコニコ笑顔で

朱里ちゃんは、ほっぺを膨らませて

トコトコ歩いて私達の所にやって来た

そして次の瞬間……

小さな身体で怒りを露わにさせて

可愛すぎる仁王立ち!!

怒ってても可愛いなんて!!罪だっ!!

ギュウギュウされて苦しいながらも

1人悶えてしまう〜!!

「ママもえるちゃんも、めっ!!
うたおねいちゃんがいたいいたいなのっ!!
はなれなちゃい!」

朱里ちゃんの突然の行動に驚いた2人は

勢いよく私を解放した

未だに可愛い仁王立ちをする朱里ちゃんに

2人はまたしても、ごめんなさいと頭を下げている

「朱里〜、良く出来たね。
大好きな人を守れて偉いな〜!」

ニコニコ笑顔の日向さんに褒められて

満足したのか、とびっきり可愛い笑顔で頷いた

「うん!うたおねいちゃんは
あかりのだいしゅきなひとだもん!
わたちがまもってあげゆの!」

解放された私にギュッと抱きついた小さな身体を

私もギュッと抱きしめた

2人で熱い抱擁を楽しんでいると

涼風さんがおずおずと声を上げた

「お楽しみのところ申し訳ないんだけど……
もうすぐアイツらが来るの。
穂花の為ってのが気に食わないんだけど
今の状況は今後の事も考えてよろしくないから
詩ちゃんの為にも、アイツらの為にも
詩ちゃんの事話したいんだけど……
詩ちゃんの辛い経験を聞いて、今後どうするかは
アイツらと穂花だけど。
いいかな?話しても……
無理なら無理って断っても大丈夫だからね?」

皆んなに私の事を話す……

私の経験が何かの役に立つなら……

それが皆んなの為になるなら私は……

ただ、まだ北斗の顔を真っ直ぐに

見れるか自信がないな

私がそこにいない事を条件に承諾した

そして奏から、もうすぐ着くとの連絡を受けて

私は日向さんと朱里ちゃんと2階の

朱里ちゃんの部屋へと向かった










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