暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
語られる詩の過去

詩の過去

涼風side

詩ちゃんを日向と朱里に任せて

私は絵留と共にアイツらの到着を待った

これからアイツらに詩ちゃんのあの笑顔の下には

壮絶な過去があって、此処まで来た事を

話す予定だけど……

ちゃんと受け止められるのかしら?

普段は能天気なほど五月蝿い絵留も

その事を1番懸念してるのか

いつもより静かで大人しいわね

「詩ちゃんには、穂花やアイツらの為にもって
伝えたけどね……
私はホントのところ穂花の為とは思ってないわ。
詩ちゃんに本来の笑顔を取り戻させて
安心出来る居場所に帰したいだけ。
そこに安心して戻れるようにアイツらには
詩ちゃんを受け止める覚悟を持って欲しいの。
生半可な気持ちでいるなら容赦なく潰すわ」

私の怒りが伝わったのか絵留も頷いた

「詩ちゃんに嘘は吐きたく無かったけどね、私も。
だけど、私も涼風と同じ気持ちなのよ。
心理学者としても看護師としても
失格なのかもしれないけど……
あの子のした事が余りにも最悪すぎて
手当てしながらも殴り倒したかったわ。
自作自演で周りを騙して振り回して
それを全く悪いとも思ってないんだもん!
本当の苦しみを知ってる詩ちゃんは優しいから
あの子が頼る人間が居ないって言った嘘を
信じて、幼馴染くんをあの子に……
それにしても、幼馴染くんは総長なんでしょ?
なのに周りが全然見えてないわね。
涼風の弟、奏君の方がよっぽど分かってる」

「そうね、絵留の言う通り。
北斗は周りが全然見えてないわね。
昔から熱くなると周りが見えなくなるし
自分の懐に入ってる人間が傷付けられるのが
許せないタイプよ。
奏はそんな北斗を抑える為に冷静に
状況を判断してスマートに対処する……
だけど内側には熱いモノを持ってる男よ。
それを意図して出さないだけでね。
だからこそ穂花の真意にも気付いたはず」

大きく頷きながら思案顔の絵留を見て

さすが心理学者なだけあって

奏の本質を見抜いて凄いと思う

案外、奏と似たタイプなのかもね

奏は見た目は爽やかクールを装ってるけど

その実、中身は情熱を持ってる男

絵留は見た目ほんわかで、天真爛漫な性格だけど

中身は物事をクールに判断する女

性別も性格も見た目も違う2人だけど

思考や判断力は全く同じ

そして詩ちゃんを大切に想う気持ちも……

人間やっぱり見た目じゃ分からないってことよね!

そんな事を考えていると何やら外が五月蝿い

来たわね……

言葉を交わさずアイコンタクトだけで

会話する私と絵留は詩ちゃんの辛い過去を

話す覚悟を決めて、リビングの扉が開くのを

ジッと見つめた

ーガチャ

奏を先頭に幹部の子達、そして…

詩ちゃんを傷付けた張本人、北斗が入ってきた

「姉さん、遅くなってごめん。
……詩ちゃんの様子はどう?」

この子は本当に詩ちゃんを大切に思ってくれてる

此処に居ない事を瞬時に理解して心配してるもの

それに他の子達も……

だけど…北斗、あんたやっぱり腹立つわね!

さっきより顔付きも目の力も変わったけど

傷付けてから気付いても遅いんだよっ!

1発行っとこうかしら!

私の纏う空気を感じたのか絵留がいつもの調子で

空気を和らげた

「奏君、大丈夫よ〜!
とりあえず君達も空いてるところに座りなさいな!
立ったままで話は出来ないからね〜!
涼風、とりあえずお茶淹れてよん。
あっ!ちなみに私はアイスティーね!」

「絵留……此処私の家なんだけど!
っていうか!
欲しいなら自分で用意しなさいよね!
私はあんたの召使いじゃないっての!」

いつもの雰囲気になってぎゃあぎゃあやり合う

私達を正気に戻したのは、日向だった

毎度毎度止めに入るのは日向だけど……

「日向、なんで降りて来たの?」

絵留と顔を見合わせてしまう

そんな私達に苦笑いしてキッチンに立つ

「あれだけギャアギャア騒いでたら
話が進まないんじゃないかと思ってね。
それに…
朱里が『パパっ!ママたち、うるしゃい!』って
怒ってたから、しぶしぶね?」

「やだっ!上にまで聞こえてた!?
あとでまた怒られるわね〜、困った!
でも良かったわ、来てくれて。
私と絵留じゃ、またやり合うから!
日向は私達のストッパーだし!ね、絵留?」

「だよね〜!
やっぱり私達は3人でひとつなのよ!
私と涼風とひーくんとっ!!」

絵留と笑顔で手を取り合うと日向は

何故かニコニコ笑顔

何なのよ、その笑顔はっ!!

「トリオみたいで嫌だけど……
僕達を良く知る、大切な人と同じ事言ってるから
嬉しくてね。
その人からすれば僕達は、太陽と月と星……
そう言ってたよ、懐かしいね」

太陽と月と星……

≪いつもニコニコ明るい太陽みたいな絵留さん

暗闇の中に居ても一筋の光で導いてくれる
星みたいな涼風さん

そんな2人と私を優しく見守ってくれる
お月様みたいな日向さん≫

出会って数年後に私達にくれた言葉だわ……

出会った頃は感情も表情もなくて

声も失ってたから

喋るのは、大抵が私と絵留で

それをニコニコしながら見守る日向

そんな私達3人を光を失った瞳で

ただジッと見つめていただけの詩ちゃん……

それが年数が経つにつれて変化していく事が

どれほど嬉しかったか分からないわ

笑顔で私達を太陽と月と星なんだって

伝えてくれた時、後でこっそり泣いちゃったし…

思い出すだけで懐かしくて泣きたい気分になる

あの頃の自分を思い出していると

日向に現実に引き戻された

「さぁ、飲み物用意出来たよ。
そろそろ本題に入らない?」

「だよね〜!
ひーくん、飲み物ありがとうね〜!
じゃあ早速だけど、話そうか。
詩ちゃんのことを話す前に、ひとつ報告ね。
幼馴染であるあの子の事だけど……
診察の結果、あれは他者による暴力によって
出来た傷ではなくて自作自演よ。
何を思ってそうしたかは知らないけど
あそこにあの子を匿う必要性は全く無いってことは
伝えておくわね!
自作自演の理由は、あなた達で聞いてね?
私はなんとなく思い当たる理由があるけど
こういう事は自分達で聞いて判断して欲しいな。
………じゃあ、あの子の話はとりあえず
今はおしまいにして、詩ちゃんの話。
詩ちゃんの過去の話ね」

絵留の視線を受けて私は頷いて深呼吸した
















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