暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
詩side

とりあえず此処には居ない星竜のみんなには

後日改めて、誠心誠意謝らなきゃな

まずは、ここに来てくれた皆んなに…

≪突然姫を辞めるって言った事、それから
勝手に出て来た事…
本当にごめんなさい≫

手話を終えて私は頭を下げた

日向さんが通訳してくれる間も私は続けた

≪言い訳にしかならないけど
あの時の私には、あれが一番いいって思ったの。
私が居る事で1人でも辛い思いをする人がいるなら
あそこにいちゃいけないって思ったから。
だけど…
一度、星竜の皆んなから託された責任を
投げ出す無責任な事をしてごめんなさい≫

私は皆んなの顔を1人ずつ見つめながら

指を動かした

日向さんの通訳を聞いた

皆んなの表情が変わる

北斗は膝の上で組まれている手を

白くなる位にぎゅっと固く握って

顔を歪めていた

他の皆も一様に悲しそうな辛そうな顔をする

それを見て、自分の軽率な行動が

自分の気持ちを優先した結果が

皆にこんな顔をさせてるのかと思うと

私は心が傷んだ。

あの瞬間は、これが最善だと思えたけど

皆の顔を見れば、それは違ったんだと思う

《私の幸せが誰かの不幸の上に成り立つのなら、私は幸せになれなくてもいいって思ってた。
偽善でも綺麗事でもなく……。

でも…
本当は、あそこを…皆が居る星竜を
離れたくなかった》

私は日向さんの言葉を思い出しながら

言葉を紡ぐ。

離れたくなかったという私の気持ちを

吐露した瞬間、北斗は顔を一度

うつ向けて、そして強い眼差しを向けながら

私を見る。

「……詩、すまない。
俺の軽率な行動がおまえを苦しめて
傷付けた」

倉庫では一度も重ならなかった視線が

今重なった。

北斗の綺麗な瞳が私を捕らえていて

私は、やっぱりこの人が好きだと

改めて思う。

《ううん、私こそ自分の気持ちを
優先して北斗や皆に背を向けちゃったから…

本当にごめんなさい》

私の言葉に北斗は首を横に振った。

私と北斗のやり取りを黙って見ていた

皆も、それは違うと首を振る。

そっと立ち上がった北斗が

私の前で屈み、その大きな手を重ねてきた。

「詩にそうさせたのは俺だし
追い込んだのも俺だ。

だけど、これだけは信じてくれ。

俺が大切に想うのも、何に変えても守りたいと思うのも…

それはこれから先も変わらない。
詩だけだ」

力強い瞳と言葉、手から伝わる温もりに

私の瞳から涙が零れた。

いつだって私に真っ直ぐ気持ちを

ぶつけてくれていたのに…

なんで私はそれを疑ったんだろう。

きっと怖かったのだ。

大切に想う人は必ず私から離れていったから。

だから私は逃げてしまったんだと思う。

もうあんな苦しい気持ちになりたくなくて…

でも…日向さんが言ってくれたように

私の幸せが皆の幸せに繋がるのなら

もう一度、手を伸ばしてもいいのかな?

ふと感じる視線に目をやれば

日向さんが優しい瞳で私を見つめ

頷いた。

視線を戻して私が話すのを待つ北斗や

皆に目を向け、私は言葉を紡ぐ。

《迎えに来てくれてありがとう。
こんな弱い私だけど、これからもずっと
私は皆と一緒に居たい。

離れたくない…》

少し恥ずかしいけど、これが私の

本当の気持ちだから。

私の言葉に北斗や皆は優しい瞳で

迎え入れてくれた。

「そんなの当たり前だよ、詩ちゃん。
これからも詩ちゃんは僕達にとって
大切な仲間だよ。

おかえり」

奏がくれた、おかえりに私は

ただいまと口を動かした。

そして奈留や錬、冬からも

「「「詩(ちゃん)、おかえり」」」

と、迎えてもらえて私は幸せな気持ちになった。

皆との会話が途切れた時、北斗から

話された穂花さんの事情は私の心を揺るがすには十分だった。

だけど、同じような境遇であった彼女。

それを支えてきた北斗と奏の話を聞いて

穂花さんにとって、この2人は拠り所だったんだと理解出来た。

当時の私にとって涼風さん、日向さん、絵留さんがそうであったように…

自分だけが幸せになるのではなく

彼女にも幸せに、笑顔になって欲しい。

私は重ねられた手をそっと外して

穂花さんの傍に近付いた。

そこに居た皆が不安そうに私を見つめて

いて、穂花さんも怯えた瞳で私を見る。

彼女の瞳から、私に対する不安や恐怖が

垣間見えて私は微笑んだ。

穂花さんの傍らに屈み、固く握られた手に

そっと重ねた。

私は重ねた手をそのままに穂花さんに

笑いかけた。

そして日向さんを振り返って頷き、そっと手を外し彼女への思いを紡ぐ。

《こんにちは、初めまして。
私は詩。

私はこの通り、話せないの。
本当は自分の声で穂花さんと話したいんだけど、ごめんね?》

私の手話に視線を落とした穂花さんは

通訳をしてくれる日向さんの言葉に

目を見開いた。

きっと彼女は私に怒られると思ったんだと思う。

揺れる瞳で見つめる穂花さんは

何故?って顔してる。

穂花さんだけではなく、ここに居る皆も

驚いていた。

(ふふっ、皆の顔、面白い)

《穂花さん、私も同じ経験をしたから
少しは気持ちを理解出来るの。

だけど、自分を傷付けるのは
もうやめて欲しい。
穂花さんが自分を傷付ける度に
北斗や奏が傷付くの。
2人にとって穂花さんは大切な人だから。

それに……
私も穂花さんが大切なの》

私の言葉に穂花さんが驚いている。

驚くのも無理はないと思う。

だって私と穂花さんは今日が初めまして。

なのに、自分を大切だと言うんだから。

でも大切だと思うのは本当のことなの。

《北斗や奏にとって大切な人は
私にとっても大切な人。

2人が守りたい人を私も守りたいって
思うの。
何が出来るか分からないけど
それでも私は穂花さんを大切にしたいって
思う。

だから、私とお友達になって下さい》

私の心からの言葉に穂花さんが……

ここに居る皆が唖然としていて。

なんだろう?皆、そんな顔して…

何かおかしな事でも言ったかな?

ひとり首を傾げながらも私は穂花さんの

言葉を待った。

そして……

「あなたに私…
酷いことしたのに……どうして?」

穂花さんの疑問に私は首を傾げる。

どうして?…って言われても

改めて聞かれると言葉が出てこない。

うーん、どうしてだろう?

《どうしてって言われても
私からすれば、穂花さんに酷いことを
されたとは思ってないし…

仲良くなりたいなぁって
思っただけなんだけど…うーん?

だめ?》

結局私の口から出てきたのは

そんな言葉だった。

仲良くなりたい事に理由っているのかなぁ?

星竜の皆や律と出会うまで

友達は居なかったから、そのあたりの

方面には全くの無知だし。

うんうん唸る私をここに居る皆が

唖然とした表情で見ていた。

ん?なにその顔……

めちゃくちゃ不安になるんだけどっ!?

視線が定まらず、あたふたしてしまう私。

「ふふ、あなたって面白いし
変わってると思う。

こんな私と友達になりたいなんて…

……でも、許されるのなら
私はあなたと友達になりたい」

少し照れながら話してくれる穂花さんの手を

握ってありがとうの意味を込め上下に

ぶんぶんと振る。

《ありがとう〜!!
ねね!これからは、ほのちゃんって
呼んでもいい!?》

ほのちゃんを立ち上がらせて

ぴょんぴょん跳ねる私に

ここに居る皆が驚き、そして

微笑ましく見てた事は知らない



















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