今が思い出にならないために。
一通り研究室の説明をみる。その中に一つ気になるものがあった。
地域の素材を有効活用して、畜産・水産分野で応用する。

これ、まさに今自分が思い描いている研究だ。
ここを見学するしかない!
そう思ってアポをとるためのアドレスを控えて筆箱に入れた。


とりあえず研究を一段落させなくては。研究室で試験管とにらめっこする日々が続いた。


一ヶ月ほどが過ぎ、ドブと溶剤の混ざったような薬品臭が染み付いた白衣を脱ぎ捨て、研究室訪問のアポイントをとるためメールを送った。

そうだ。彼にも連絡しよう。そう思ってスマホを開き、メッセージを入力する。

[実は、今の大学の院に進もうと思ってたんだけど、それだと色々厳しいなって思ってて。]

[海斗くんの進む大学院に気になる研究室があるから、一度見学してみようと思う!]

すぐに既読がついたが、いつになく返信が来ない。
そのまま何日かが過ぎた。

きっと忙しいんだなと思ったが、漠然とした不安がよぎった。

私、なんかへんなこと言ったっけ…見学するとか、言わない方が良かったかな?そんなことを考えていると、スマホが音をたてた。

津久見 海斗。彼からだ。

[そうなの!?]

[一応、何度か見に行ってるし何かあったら何でも聞いて!]

いたって普通の彼からの連絡に、不安は何処かへ消え去った。
< 13 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop