今が思い出にならないために。
「あれー、こんなところでどうしたん?」

隣の研究室の香川教授だ。
香川教授には、受験のときにはじめて顔をあわせてから、私の研究室の教授と共に色々とサポートしてもらっていた。

『あの、ちょっと歩いていたら、この建物が気になって…』

すると、穏やかだった教授の表情が急に曇る。

「ここ、いい噂がないんや、昔、殺人事件があったんやて。
最近でも心霊スポットとして近寄った人が、そのまま行方不明になったしな。こういう所は危ないし、あまり近寄らない方がええよ。」

『えっ!そうだったんですか!?知りませんでした…』

まさか、爽やかな海辺にあるものがこんなに禍々しいものだったとは。

喫茶店の趣が残る廃墟に見えていたものが、一瞬で曰く付きの見てはいけないものに変わった。



私は教授に一礼し、足早に大学へと帰った。
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