今が思い出にならないために。
また長い待ち時間が出来てしまった。

仕方ないので出来ることから片付けておこうと思い、使用済みのビーカーや薬さじを洗っていると、研究室の部屋の入り口のほうからユキがやって来た。

「か、神崎さん!あの…」

『はい!どうしたの?…ていうか…マキは?』

先ほど二人は段ボールを畳んでテープで束ねていた。しかし、その段ボールとマキの姿は見当たらない。

「段ボールの置き場あんま覚えてなくて…ぼやぼやしてたら、マキさんが持ってっちゃいました…」

情けないなぁ、と思いつつもくりくりの目が潤んでいる彼は、アイドルの女子かと思うほどにかわいいからずるい。



「…僕めっちゃ頼りないですよね、最近実験もあんま上手くいってないし。変わる決意したのに。」

『そんなにマキのこと好きなの?』

ちょっとからかったつもりだったが、ユキの顔はみるみるうちに赤くなり、口をパクパクさせてあわてている。予想以上の反応だ。

「し、正直一目惚れ…しました…でも、彼女のためとかじゃなくて、それより前に決意したことなんです。まずそれを果たされないと…僕…」

彼が声を震わせて俯いてしまったので、私は慌てて

『ユキらしくしなよ!嫌ならマキだって構ったりしないし!』

と元気づけた。

しかし、彼はより深く下を向くばかりだ。


「…やっぱ僕じゃ、津久見くんにはなれないか…」



彼は小声でそう呟いた。
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