今が思い出にならないために。
夢中で自分の近況や学校の話をし合う。
前に会った大学祭からさほど日が過ぎたわけではないけれど、なんだかやっと会えたような気がする。

ふと窓の外に目をやると、木葉にてんとう虫が止まっているのを見つけた。

彼も同じ方向に目をやった。

「てんとう虫だ!」

彼は途端に笑顔になる。

私の胸がきゅんとするのを自覚した。
普段のシャープで大人っぽい雰囲気と、無邪気な笑顔のギャップにはかなわない。


アイスコーヒーがカランと音をたてた。
溶けた氷が無色透明の層をつくって、淡いグラデーションになっている。

彼はグラスの水滴で濡れた手をペーパーで拭きながら口を開いた。

「なぁ、もう進路って決まった?」

『うーん、興味のある研究が出来る大学にしようかと思ってたけど、手に職つけたい気もして、地元の医療系資格が取れる大学もいいかなって…』

「そうなんだ…まぁ俺も一応、研究とかしたいなって…」


彼はそのまま黙ってしまった。

何かで迷っているのかもしれないが、色々詮索するのもデリカシーがない気がして何も言えなかった。


そのあとすぐ店を出て、しばらく駅で遊んだりして家に帰った。


それ以降、模試や学校の特別授業なんかが忙しくなり、連絡がまばらになっていった。
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