Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「ちょっと受けてくれ。」


「道原に受けてもらえよ。」


「ミチは尾崎の球、受けてるんだよ。」


「じゃ、2年の誰かに受けてもらえ。」


「なんで受けてくれないんだよ?」


「今は忙しいんだ。」


「何か怒ってんのかよ?」


「別に怒ってなんかねぇよ。」


季節は春から夏に向けて、一歩また一歩。そんな、ある日。投球練習をしようと声を掛けて来た沖田を冷たくあしらうと、俺は奴から離れる。


昼間、沖田と由夏が結構仲良さそうに話してるのを、横で聞いてた俺は、なんかムカついて。はっきり言えば、沖田に嫉妬しちまったんだ。


生まれた時からあいつを知ってる俺が、挨拶1つ交わせない仲になってるのに、たかが3年、クラスが一緒だったくらいで・・・まぁ2人の間に、何かあるわけではなさそうなのは、わかっちゃいるんだけど、やっぱり面白くない。


なんて、マジでスネている俺は、我ながらちっちぇよなぁ・・・。


でも仮にもエースからのご指名を拒絶したのは、嫉妬のせいばかりではない(9割はそうだけど)。


ブルペンからメイングラウンドに移動した俺は、1人の後輩に声を掛けた。


「剣、そろそろ始めるぞ。」


「はい。」


その声に、早くも汗びっしょりになって走り込んでいた奴は


「橘くん。」


「サンキュー。」


マネージャーの村井から渡されたタオルで、サッと顔を拭くと、俺の方に向かって来る。


橘剣、前にも話したけど、超絶ノーコンピッチャーだが、スピードは白鳥さんにだってヒケをとらない。こいつがもし使えるようになれば、夏の神奈川大会は十分戦えると俺は踏んでる。


それで、俺が秋からずっと面倒を見ている。こいつのノーコンぶりは、なんか他人事には思えなかったが、ただ俺のように精神的なことが原因だと、厄介だったが、話を聞く限りはそれはなさそうだった。


監督とも相談した結果、まずはピッチング練習をさせずに、ビッシリ走り込みをさせた。


「俺は陸上部に入ったんじゃないっすよ。」


最初はそう言ってふて腐れていたが、根は素直な奴で、走り込んでいるうちに、下半身が鍛えられ、踏ん張りが効くようになり、少しずつ、コントロールが安定し始めた。


この調子なら、もうすぐバッティングピッチャーでも投げられるかもしれない。そこで感覚を掴めれば、実戦も十分にいけるはずだ。


(コイツと一緒に、俺もレギュラー復帰だ。)


内心、そんな野望を抱いていた。自力で甲子園だのと、力んでみたところで、試合に出られないんじゃ、お話にならない。


俺は気合が入っていた。
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