Smile Again 〜本当の気持ち〜

苦しい戦いになった。強打で、勝ち進んて来た湘南学園。前の日、今大会ナンバーワンピッチャーだと思っていた東海のエースが打ち崩されるのを、ニュースで見た時から、厳しい戦いになるとは思っていたけど・・・。


全国有数の激戦区と言われる神奈川大会を勝ち抜くべく、全国から優秀な選手を集めたと言われる湘南学園。その打線の迫力は、甲子園で対戦した、幾多の強豪校とも遜色ないくらいだった。それでも、そうやすやすとはやられないのは、沖田も俺も伊達に経験は積んでないということだ。


もっともそれも一回りまでだった。相手打線が二巡目に入ると、沖田の緩急とコーナーワークを駆使した投球を相手のパワーが凌駕し始め、あっという間に3点を献上。


尚もピンチが続くところで、居郷監督は沖田を諦めた。順番なら尾崎だが、監督は剣を投入した。剣のスピードボールで相手の勢いをとにかく止める、監督の判断は俺には正解に思えた。


そして剣も見事に、その期待に応え、相手打線を封じて、それ以上の追加点を許さなかった。


「ナイスピッチングだ、剣。」


「ま、こんなもんでしょ。」


俺の言葉に、こともなげに答える剣。こうなるとこいつの強心臓が頼もしい。


「さぁ、反撃だ。行くぞ!」


キャプテン神の檄に応えて、まず4番仁村がライトスタンドに放り込んで、反撃の狼煙を上げると、5番神、６番尾崎が連続ヒットで続いて、ここで7番の俺に打順が回って来た。


「塚原くん、バントかな？」


「送っても、次が8番、9番じゃ・・・。打ってくしかないよ。」


悠の言葉に答えた私の視線は、グラウンドに向けたまま。


（監督、お願い、聡志に打たせて。）


セオリーならバントかもしれない。だけど、ここは聡志に打たせて欲しい。私はベンチに向かって祈る。打撃が得意じゃない聡志だけど、あとの2人よりはチャンスはあるはずだ。


そして。私の祈りが通じたのか、聡志にバントの構えはない。


（聡志、頼んだよ。）


私が、そう聡志に心の中で呼び掛けた瞬間だった。


金属バットの凄まじい打球音が響いたかと思うと、白球がレフトスタンドに向かって一直線!


「由夏!」


「やった!」


思わず飛び上がる私達。そう、見事な聡志の逆転3ランホームランだ。ドッと湧き上がる明協応援団。


（やったね聡志、凄いじゃん。）


私は思わず聡志に向かって、ガッツポーズを送っていた。