Smile Again 〜本当の気持ち〜
その瞬間、何が起こったのか、全くわからなかった。当然送りバントのサインが出ると思っていたら、打てと言われ、なら、とにかく思いきり振って行こうと思ったら・・・。
打撃が得意でないのは、自覚していたが、それでも最後の夏に向けて、後悔だけはしたくないと、バッティング練習にも励んで来た。
だけど、ホームランなんて、自慢じゃないが、練習試合でも打ったことがない。それが、こんな場面で出るとは、思ってもみなかった。
夢見心地で、ベースを回る。ふと気が付くと大喜びのベンチ、更には応援席が目に入る。
(見てたか、由夏。初ホームランだぜ!)
もちろん姿は確認出来ないけど、あの中に由夏は絶対にいる。俺はあいつに向かって、叫びたい気持ちだった。
これで逆転、さぁこのまま押してくぞ。俺達は勢い込んで、次の回の守りに着いたが、そんな俺達に、悪夢のような時間が襲いかかって来たのは、間もなくのことだった。
剣をリリーフにしたのは、短いイニングで、奴の速球を最大限活かす為だったが、実はもう1つ理由がある。それは奴のコントロールがまだ完全とは言えず、長いイニングを投げさせれば、ボロが出かねなかったからだ。
そして、その懸念を残念ながら、湘南学園は冷静に見抜いていた。剣は今まで、2イニングまでしか投げたことはなかった。
しかし、今日はそうはいかない。3イニング目に入った剣の球威は落ち始め、それまで面白いように空振りが取れていたのに、バットに当たるようになって来た。
ファールで粘られ、なかなかアウトが取れなくなった剣は、苛立ち、コントロールを乱し、ストライクを取りに行くところを打たれ、警戒して、またストライクが入らなくなり・・・まさに悪循環。
そして、いつしか俺のホームランで奪ったリードなど、消えてなくなり、進退極まった剣が苦し紛れに投げたストレートが、待ってましたとばかりに、相手の4番に捕らえられた。
(やられた・・・。)
レフトスタンドに一直線に向かって行くその打球を、俺は呆然と見送るしかなかった。
そこからは、もう一方的な展開だった。東海を始めとした各校が呑み込まれた湘南の猛打の前に、俺達は為す術もなかった。
そして、最後の打者となった金谷の打球が、力なくセンターに上がった時、俺達の戦いは終わりを告げた。
最後の打者になった金谷を始め、仲間や後輩達が涙を見せる中、俺は冷静だった。あまりの完敗に悔しいという思いすら湧いて来なかったというのが、正直なところだった。
(終わっちまったよ・・・由夏。)
大敗にも関わらず、声援を送ってくれた応援席に一礼した後、俺はあいつの姿を探しながら、心の中でつぶやいていた。
打撃が得意でないのは、自覚していたが、それでも最後の夏に向けて、後悔だけはしたくないと、バッティング練習にも励んで来た。
だけど、ホームランなんて、自慢じゃないが、練習試合でも打ったことがない。それが、こんな場面で出るとは、思ってもみなかった。
夢見心地で、ベースを回る。ふと気が付くと大喜びのベンチ、更には応援席が目に入る。
(見てたか、由夏。初ホームランだぜ!)
もちろん姿は確認出来ないけど、あの中に由夏は絶対にいる。俺はあいつに向かって、叫びたい気持ちだった。
これで逆転、さぁこのまま押してくぞ。俺達は勢い込んで、次の回の守りに着いたが、そんな俺達に、悪夢のような時間が襲いかかって来たのは、間もなくのことだった。
剣をリリーフにしたのは、短いイニングで、奴の速球を最大限活かす為だったが、実はもう1つ理由がある。それは奴のコントロールがまだ完全とは言えず、長いイニングを投げさせれば、ボロが出かねなかったからだ。
そして、その懸念を残念ながら、湘南学園は冷静に見抜いていた。剣は今まで、2イニングまでしか投げたことはなかった。
しかし、今日はそうはいかない。3イニング目に入った剣の球威は落ち始め、それまで面白いように空振りが取れていたのに、バットに当たるようになって来た。
ファールで粘られ、なかなかアウトが取れなくなった剣は、苛立ち、コントロールを乱し、ストライクを取りに行くところを打たれ、警戒して、またストライクが入らなくなり・・・まさに悪循環。
そして、いつしか俺のホームランで奪ったリードなど、消えてなくなり、進退極まった剣が苦し紛れに投げたストレートが、待ってましたとばかりに、相手の4番に捕らえられた。
(やられた・・・。)
レフトスタンドに一直線に向かって行くその打球を、俺は呆然と見送るしかなかった。
そこからは、もう一方的な展開だった。東海を始めとした各校が呑み込まれた湘南の猛打の前に、俺達は為す術もなかった。
そして、最後の打者となった金谷の打球が、力なくセンターに上がった時、俺達の戦いは終わりを告げた。
最後の打者になった金谷を始め、仲間や後輩達が涙を見せる中、俺は冷静だった。あまりの完敗に悔しいという思いすら湧いて来なかったというのが、正直なところだった。
(終わっちまったよ・・・由夏。)
大敗にも関わらず、声援を送ってくれた応援席に一礼した後、俺はあいつの姿を探しながら、心の中でつぶやいていた。