Smile  Again  〜本当の気持ち〜
学校に戻るバスの中、選手やマネ-ジャ-のすすり泣く声も聞こえ、空気は当然のことながら重かった。


「みんな、お疲れさん。残念な結果に終わったが、これが我々の実力だったということだ。だが、我々は力の限り戦った。そのことには胸を張っていいと思う。3年生は、これで高校球児としての全ての戦いを終えたことになる。君たちのこれまでのひたむきな努力と全力を尽くしたプレ-には、常に敬服していた。君たちのその姿は、必ず後輩達に引き継がれていくはずだ。本当にご苦労様でした、そしてありがとう。」


マイクを握って、俺達をねぎらってくれた監督の言葉に、多くの連中が涙を新たにする中、バスは学校に戻って来た。出迎えてくれる人はまばらで、勝者として凱旋して来た時とのコントラストは、残酷なくらいに、戦いに敗れたという現実を俺達に突き付けてくれた。


言葉少なに、片づけを終えた俺達だったが、その後、改めて敗戦の責を一身に背負い涙する奴、そいつを懸命に慰め、励ます奴。お互いの健闘をたたえ合い、明日からの再スタ-トを誓い合う奴らもいた。


そんな光景を俺は、少し離れた場所でしばらく眺めていたが、やがてみんなに背を向けた。1人になりたかった。


痛いくらいだった夏の陽も、ようやく西に傾き始めている。俺は誰もいないグラウンドに足を踏み入れた。


(終わっちまったんだな。)


試合の余韻が徐々に冷めて来て、俺はようやく敗北という現実に向き合い出していた。


完敗だった、たぶん何度チャンスをもらったとしても、今の俺達じゃ湘南学園に勝つことは難しいだろう。それでも負けたのはやっぱり悔しい。俺達はもう明日から、明協のユニホ-ムを着て、戦うことは出来ない。仁村や剣達にバトンを渡して、俺達はこのグラウンドを去ることになる。


気が付くと、俺はマウンドに歩み寄っていた。そして俺は持っていたバッグを横に放ると、本当に久しぶりにマウンドに立っていた。マウンドからホ-ムベ-ス方向を眺める景色が、懐かしかった。


さっき監督は言ってくれた。我々は全力を尽くした、ひたむきに努力をして来たって。でも俺達は、いや俺は本当にそう胸を張れるのか?


様々な思いが浮かんでは消えて行く。どのくらい、そうしていたのだろう。そんな俺を現実を引き戻してくれるかのように声が聞こえて来た。


「帰らないの?」


その瞬間、俺は自分の耳を疑った。だけど、俺がその声を聞き間違えるはずがない。振り返った俺の視線の先にいたのは、やっぱりあいつだった。
< 116 / 217 >

この作品をシェア

pagetop