Smile  Again  〜本当の気持ち〜
戦いは終わってしまったが、俺達3年にはまだやらなければならないことが残っている。歴代の先輩達がそうして来たように、新チームのキャプテン以下の役職者を監督に推薦しなければならない。


もっとも、推薦と言っても、3年生の総意を監督がひっくり返すことはほとんどないのが現実だがら、実質俺達が決めるということ。


翌朝、少し早めに集まった俺達は、神と金谷を中心に、当たり前だが、真剣に討議した。


新キャプテンに仁村を推すことに異議はなかった。かつての松本さんのように、誰が見ても、チームの中心である仁村以外にキャプテンは考えられない。


問題はそれを補佐する副キャプテン。いよいよ背番号1を背負うことになる剣と、俺の後のキャッチャーのレギュラーになるはずの谷岡和也で、意見は割れた。


ちょっと大人しいが、キャッチャーらしい冷静な視点で、チームの状況を見ることが出来る谷岡を推す声の方が強かったが、俺は剣を推した。


あのやんちゃな性格は、アイツの強みでもあるが、ピッチャーとして、剣にはもう一皮むけて欲しい。その為に、責任あるポジションに就けて、自覚を持たせた方がいいと俺は思っていた。


その俺の意見に神、金谷の2人が同意してくれて、結局キャプテン仁村司、副キャプテン橘剣、そしてチーフマネージャーは引き続き村井紀子の三役が俺達の総意となり、監督に報告。了承を受けて、新チー厶が動き出した。


新キャプテン仁村の号令の下、練習に入った後輩達を見送った俺達。監督からの指示は、もうない。好きにしろ、そういうことだった。


「どうする?」


金谷が神に尋ねる。過去2年の3年生達は、甲子園に出場し、国体もあった。だけど、俺達はそれより3ヶ月も早く、事実上の引退の時を迎えてしまった。


「強制はしない。でもせっかく集まったんだ。やろうぜ。」


「そう来なくっちゃ。」


「当たり前だ、みんなそのつもりで来てるんだ。」


そう言うと、俺達はアップに入る。みんな笑顔だった、やっぱりみんな、野球が好きなんだ。


アップの後は、キャッチボール。俺はいつものように、同じキャッチャーの道原と組んだ。同じポジションを争ったライバル、結果的に俺が勝った形にはなったが、お互いに認め合った、いい関係だったと思ってる。


肩が温まったら、沖田や尾崎の球を受けるべく、ブルペンに入る。だけど、この日は道原に俺は言った。


「道原、受けてくれ。」


「えっ?」


いきなり何を言い出したんだ?キョトンとしている道原を尻目に俺は、マウンドに向かった。
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