Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「白石が言った通り、俺は中2の途中までピッチャ-だった。しかし廃業した、理由は、ご覧の通り。まともなボ-ルが投げられなくなったからだ。」


「でも、投球練習の時は、あんなに凄い球を・・・。」


「まぁな。自分でもビックリするくらい、いい球いってたな。でも打者が立った途端にあの体たらくだ。あれじゃ、使い物になんねぇだろう。イップスって奴さ。」


「塚原さん・・・。」


「中1の冬、俺は気に食わない先輩にビンボ-ルを投げた。ギリギリ頭には、当たらないように投げたつもりだったんだが、ものの見事に命中。俺にも言い分はあるが、ピッチャ-として許されないことをしたのは事実。結果、天罰が下って、この有様さ。普段はなんでもない、だけど打席に人が立った途端に、もうどうにもならなくなる。」


「・・・。」


「一度は野球を辞めるつもりだったんだが、諦めきれなくて、当時の監督の勧められるままにキャッチャ-に転向して、今日に至るってわけさ。」


みんなが黙って俺の話を聞いてくれている。そんな中、俺は剣に視線を向けた。


「なぁ剣。昨日の試合、俺達は負けた、完敗だった。それを認めた上で聞く。お前、昨日の試合、全力を尽くしたって、胸張って言えるか?」


「先輩・・・。」


剣は下を向いてしまう。


「沖田、お前はどうだ?昨日のお前のピッチングは白鳥さんから受け継いだ背番号1に恥じないピッチングだったと言えるか?」


沖田も何も答えない。


「湘南学園の打線は凄かったよ。悔しいけど、どうやっても勝ち目はなかったと思う。だけど、敵わぬまでも、全力を出して、ぶつかったか?監督は昨日のバスの中で全力を尽くして戦ってくれたって言ってくれた。俺達の全力で戦った姿に感動したって、言ってくれたクラスメイトもいた。みんな優しいよな。そんなのウソだろう。どこが全力を尽くしたんだよ、湘南打線の迫力にビビッて、2人とも逃げ回ってただけじゃねぇか。」


「おい塚原、もういいだろう。」


今更そんなこと言ったって、といわんばかりに神が止めに入るが、俺は続ける。


「そんなお前達が情けなかった。お前ら、俺が代わりに投げてやるからどけって、何度も喉元まで出かかってたくらいにな。」


「いくらなんでも、それは言い過ぎだ。」


たまりかねたように金谷も止めに入るが、


「最後まで聞けよ。でも俺には言えなかった。言えるわけねぇんだよ。俺がもっと情けねぇと思ったのは、そんな自分自身に対してだった・・・。」


俺はそう言うと唇をかみしめた。
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