Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「来てたのか。」


「うん。」


「みっともないとこ、見られちゃったな。」


「そんなことないよ。聡志のピッチング見られて嬉しかった。でもいろいろあったんだね、向こうで。ちっとも知らなかった。」


「隠してたからな。」


今日は授業もない。なんで由夏がいるのか、内心首をひねりながら、でも久しぶりに見る由夏の私服姿に、やっぱり可愛いな、なんて思ってしまう俺。


「どうしたんだよ、また忘れ物か?」


「う、うん。ちょっと、ね・・・。」


なんだか知らないが、らしくもなく、もじもじしてる由夏。そういや、今の由夏からは考えられないけど、昔はこんな恥ずかしがり屋だったんだ。


かく言う俺も、昨日の今日で、場所も同じ学校。由夏のぬくもりや心地よい香りが甦って来て、顔が赤くなって来る。


ぎこちない空気が流れる。練習の合間に抜けて来たんだから、いつまでもこうしているわけにもいかない。何か言わなくちゃ・・・。


「昨日は、本当にごめんな。」


「えっ・・・?」


俺の言葉に、ハッと顔を上げる由夏。


「あんなこと、しちまって。嫌な思いさせちゃったな。ほんとにごめん。忘れてくれ。」


とっさに出てしまったことだったけど、俺の勝手な思いを由夏に押し付けてしまった。俺は、そのことは申し分ないと思ってる。だから頭を下げたんだ。


だけど、その言葉を聞いた瞬間、由夏の顔色が変わったような気がした。気にはなったけど、もう行かなきゃならない。


「じゃ。」


と背を向けようとした時だ。


「忘れて欲しいんだ?」


「えっ?」


「聡志は忘れて欲しいんだ、あの事。」


「由夏・・・。」


「だったら、何であんなことしたのよ!」


思わぬ由夏の怒りに、俺は言葉を失う。


「最低!」


そう言い捨てると、由夏は踵を返して、走り出した。


「由夏!」


俺は思わず呼び掛けるけど、由夏は振り向きもしない。俺はその姿を呆然と見送るしかなかった。


一方


(なんだよ。)


悔しかった、悔しくて、涙が出て来る。その涙を見せたくなくて、私は走る。


私には聡志に聞きたいことがあった。あの時、聡志に抱きしめられて、私は自分の本当の気持ちに気付いた。でも聡志は何で、私を抱きしめたの?ひょっとしたら、聡志も私と同じ思いなんじゃ・・・。


そんな私の期待は、無残に踏みにじられた。あいつにとって、あれはただの気まぐれ。ちょっと落ち込んでたところに、たまたま手頃な昔なじみが現れたんで、気休めにあんなことしただけなんじゃない。


あの時、あいつは言った。「今は、今だけは」って。その意味がやっとわかった。勝手に盛り上がって、1人でときめいてた私って、まさにピエロ。


小学校3年生の時、急にあいつに突き放されて、悲しくて一晩中泣いて、私は決心した。泣き虫はもう卒業しようって。だって私を励まして、守ってくれる人はいなくなっちゃったんだから。


以来、私が泣いてしまったのは3回。聡志が仙台に行っちゃった日と、去年聡志に幼なじみなんかに戻りたくないって、言い放たれた時と、そして今。


結局、全部聡志絡みじゃない。バカみたい、私・・・。
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