Smile  Again  〜本当の気持ち〜
新チームのスタートを見届け、俺達の部活動は1つの区切りを迎えた。そして、俺達はそれぞれの道を歩み始める為の準備をしなければならない時期を迎えた。


これを機に、野球選手としての活動に終止符を打つ決断をした奴らは、退部届を提出。部活動を引退して行く。1人また1人と同級生達が、グラウンドを去って行くのは正直寂しい。


8月に入ると、残った3年は俺の他には神、尾崎、山崎、道原の4人だけになっていた。それも明確に野球を続けることを決めているのは俺と神だけだった。沖田や金谷といったレギュラー達が早々に引退して行ったのは意外だった。


だけど1度だけ、辞めた連中を含めて、3年全員が集合した日があった。集まった俺達は、部室に備えつけてもらったテレビを食い入るように見つめていた。


この日は夏の甲子園の開会式。我が明協高校は昨年の優勝校として、優勝旗を返還しなければならない。


お馴染みの行進曲が流れ、国旗や大会旗に続いて、各県代表に先駆けて登場した我が校は、優勝旗をもった神がキャプテンとして、たった1人で行進して行き、その姿に大きな拍手が、送られている。


同じ光景を5ヶ月前にも見た。春のセンバツ大会で、やはり出場校になれなかった明協は、優勝旗の返還に神1人を送り出さざるを得なかった。


その時もひときわ高い拍手で迎えられたのだが、のちに神はその時の気持ちを


「恥ずかしかった、というより情けなかったよ。」


と悔しそうに言っていた。夏は絶対に全員で優勝旗を返しに行こう、その誓いは残念だけど、果たせなかった。今また、1人精一杯胸を張って歩く神の姿に、改めて敗退の屈辱が甦って来る。神もさぞ無念だろう、最後のケジメとして、俺達はその姿をみんなで見守った。


この屈辱を晴らすことは自分達にはもう出来ない。それはこの開会式に目もくれず、練習に励んでいる後輩達に託すしかない。


そして、俺はまた練習に励んだ。もうすぐセレクションがある。セレクションというのは、まぁ大学野球部の入部テストみたいなもの。ここで認められなければ、大学で野球を続ける道は、ほぼ閉ざされる。


大学の方から、スカウトが来るほど有力選手ではなかったが、それでも甲子園出場2回のキャリアのお蔭で、門前払いされるようなこともなく、希望校のセレクションにエントリーすることが出来た俺は、なんとか入試でゲタを履かせてもらえるくらいの評価はしてもらえた。


よほどの油断かスキャンダルでも起こさない限り、どうやら大学で野球を続けられる目途は立った。親や同級生達は喜んでくれたが、もう1人、報告したかった奴には、何も言えず終い。


こうして、俺は新学期を迎えた。
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