Smile  Again  〜本当の気持ち〜
白鳥さんが、俺達の教室に姿を見せたのは、苦行のような校長の長訓話からようやく解放されて、教室に戻った時だった。


ゴーさんに呼び込まれて、先輩が入って来ると、教室の空気が変わったのが、はっきりわかった。さすがの存在感だが、白鳥さんの方も、結構緊張しているのが、伝わって来る。席につく時、隣の席の水木にちょっと会釈してたのには、びっくりした。


ゴーさんの話が、簡単な事務連絡だけで終わって、この日は解散になると、俺と沖田はさっそく先輩のところに挨拶に行く。


俺達の顔を見ると、白鳥さんはホッとしたような笑顔になった。俺達の方も元気そうな白鳥さんの姿に安心していた。


少し話した後、野球部に挨拶しに行くというから、お供することにする。グラウンドに行くと仁村や剣達、先輩と一緒にやってた2年はもちろん、先輩とは入れ違いで、初対面のはずの1年まで、大騒ぎで先輩を迎えた。


「白鳥、心配掛けやがって。」


「そうですよ。お兄ちゃんもいつも心配してたんですよ。『白鳥はまだ帰って来ないのか』って。」


「監督、すいませんでした。紀子、村井さんには改めて連絡するけど、よろしく伝えてくれ。」


グラウンドでは、しばし、そんなやり取りが続いたが、練習の邪魔になってはと、先輩が適当なところで引き上げるというので、既に退部している沖田はもちろん、俺も一緒にグラウンドをあとにした。


「神達も先輩に会いたがってます。明日学食に集合させますから、一緒に昼飯食いましょう。」


「そうか、楽しみだな。」


沖田の言葉に、白鳥さんは顔をほころばせたが、フッと立ち止まって、俺の方を見た。


「ツカ。」


「はい。」


「いろいろ迷惑掛けたな、お前には。すまなかった。」


そう言って頭を下げる白鳥さんに俺は驚く。


「俺のわがままで、お前を苦しめてしまった。一時は野球を辞めようとまでしたんだってな。お前が責任を感じる必要なんて、全くなかったのに・・・。」


「白鳥さん・・・。」


「この1年、なんとかもう1度投げられないか、そう思って足掻いたのは事実だ。俺の言うことを聞かなかったからだ、そう言われれば一言もない。だけど、あの時点で止めなかったという選択肢を後悔したことはない。それだけはわかって欲しい。」


「・・・わかりました、先輩。」


俺は頷いた。それを見た先輩は微笑むと、今度は沖田に話し掛けた。


「ソウは辞めちまうんだってな、野球。」 


「はい、もう俺の力じゃ、限界です。」


「そうか、自分で決めたことなら仕方ない。だけどソウ、野球を嫌いになったわけじゃないよな?」


「はい。」


「なら、よかった。誰でもいつか野球を辞めなくちゃならなくなる時が来る。でもその時に、野球なんか嫌いだ、2度ともうボールなんか触るものか、そんな辞め方だけはして欲しくないんだ、俺は。」


白鳥さんは俺達の顔を交互に見ながら続ける。


「俺はもう自分ではプレー出来ない。でも俺は野球から離れるつもりはない、どんな形でも必ず野球に携わって行きたいと思ってる。その為にここに戻って来た。ソウも1ファンとして、これからも野球を応援していって欲しい。そしてツカは、俺達の分まで、出来る限りプレーを続けてくれ。頼んだぞ。」


「はい。」


(この人は本当に野球が好きなんだな。)


それが再確認出来て、俺は嬉しかった。
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