Smile  Again  〜本当の気持ち〜
泣きながら、屋上に駆け込んだ悠を追い掛けて、私も屋上に出る。


「悠!」


私の声にハッと振り向いた悠は、次の瞬間


「由夏〜。」
 

と私に身体を預けてくる。そんな悠を抱き止めた私は、泣きじゃくる彼女の背中を、頭をそっと撫でてあげる。


どのくらい経ったか、足音が聞こえて来て、ドアが開く。


「ここにいたのか。」


見ると、沖田くんと加瀬くん、それに聡志の3人が入って来た。


「すまない、水木さん。君にあんなことを言わせてしまって。」


「本当は俺達が言わなきゃいけなかったんだ、なのに・・・。」


加瀬くんと沖田くんが口々に今更、と思うようなことを言って来るけど、悠は私の胸から顔を上げることが出来ない。


「先輩は?」


代わって聞いた私に


「帰った。止めたんだけど・・・。」


沖田くんが、バツ悪そうに答える。


「そう、最低だね。」


あんなに先輩のことを一途に慕っている悠を、こんなにまで悲しませて・・・私はこみ上げてくる怒りを必死に抑えながら、でも一言つぶやくと、沖田くんは返す言葉もない。


とにかく今、3人にガン首揃えられても、何の役にも立たない。


「とにかく悠のことは、私に任せて、君達は戻って作業進めてよ。」


ただでさえ、非協力的な人達がいて、ウチのクラスの準備は遅れているんだから。すると、今まで少し離れた所で、黙っていた聡志が


「わかった。頼んだぞ、由夏。」


と私をまっすぐ見て言った。


「うん。」


つられたように、聡志の顔を見て頷いた私を見届けると


「行こう。」


と他の2人に声を掛けて、聡志は出て行った。


また悠と2人きりになった屋上で、彼女を懸命に慰めながら、でも私は別のことを考えてしまっていた。


(今あいつ、私のこと、由夏って・・・。)


聡志に「由夏」って、呼ばれるのは珍しくもなんともない。って言うか、物心ついてから、あいつに「由夏」か「由夏ちゃん」としか呼ばれたことはない。


でも、人前で「由夏」って呼ばれたのはいつ以来?少なくても、聡志が帰って来てからは1度もない。


それに「わかった」って、答えて、まっすぐ私を見た時の聡志はカッコいいというか、頼もしいというか、私が大好きだった、活発でクラスの中心だった頃の聡志に戻ったようだった。


だから


「頼んだぞ、由夏。」


って言われて、思わず


「うん。」


なんて、可愛く答えてしまった。


ごめんね、悠。こんな時に、私、何考えてるんだろうね・・・。
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