Smile  Again  〜本当の気持ち〜
まさか雨になるとはなぁ。あの時、俺は野球部の同期達と、自分達にとって最後となる花火を一緒に見ようと、グラウンドに移動中だった。


俺と神以外は、もうみんな部活を引退し、受験勉強に、精を出しているから、集まるのは久しぶり。それはそれで嬉しかったんだが、それにしても自分のことを棚に上げて、なんだけど、1人くらい、彼女がいる奴はおらんのかいとは思ってしまった。


そこへ、あの雨。俺達は慌てて、校舎に引き返したのだが、俺は白鳥さんと水木が仲良く手を繋ぎながら、これまた校舎に急ぐ姿に気付いた。


(へぇ・・・先輩、やるじゃん。)


思わぬアクシデントに見舞われてしまったが、白鳥さんはちゃんと水木を誘ったんだ。やっぱりモテない俺達とは違う、やる時はやるんだな。


ということは、俺の心配は取り越し苦労だったということになる。白鳥さん達のことにかこつけて、せっかく由夏と話せるようになったのに、これまでということか・・・。


このところ、白鳥さんのことや文化祭のことで、由夏や他のクラスメイト達と話したり、一緒に何かをする機会が増えた。必要があったからと言ってしまえば、それまでだけど、別になんてこともなく、自然とそうなれた。


結局、こっちに帰って来てから、由夏やクラスの連中に、一所懸命に壁作って、交わろうとしなかった自分は何だったんだろうって、我ながら、急にバカバカしくなってしまった。


小学生の時は自然に出来たことが、引っ越して、中学に馴染めなくて、自分の殻に閉じこもるようになって、それをこっちに帰って来てからも引きずって・・・。


由夏に言われたことがあったよな、昔の俺に戻って欲しいって。その時は今更そんなこと出来るかよって思ったけど、あいつの笑顔に、俺が素直に心を開いてれば、こんな無駄な時間を過ごすことはなかったんだよ。


なんで、もっと早く気づけなかったんだよ、俺は・・・。


あれ?そう言えば、水木が先輩と一緒だったってことは、あいつは、誰と一緒に花火見るつもりだったんだ?ひょっとしたら・・・。


実はダメ元で、花火一緒に見るかって、誘ってみようかとは思ったんだよ。でも、やっぱり水木と見るんだろうと思ったし、俺も神達に、当たり前のように一緒に見ることにされちまった。第一、かなり無理矢理に話すようになったけど、あの夏の日に「最低!」って、言われちまったことを忘れたわけでもないし、謝れたわけでもない。俺もそこまで、心臓強くなかったんだ・・・。


教室に戻ると、一瞬由夏と目が合ったんだけど、すぐ逸らされた。怒ってる、のかな・・・?


花火大会は中止になり、片付けを再開した俺達は、そそくさと作業を終わらせ、早々に帰宅の途についた。やはり最後のクライマックスに文字通り、水を差されてしまい、みんなすっかり意気消沈の様子。


先輩と水木も特に変わった様子も見せずに、普通に帰って行ったし、一緒に帰ろうと誘おうと思ったら、由夏の姿はもう、どこにもなかった・・・。
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