Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「でも、聡志の言った通りになったじゃん。このまますんなりはいかないって。」


「伊達に1年、あの人の女房役、やってねぇからな。だけど、先輩らしくないよなぁ、大事な時に、訳のわからん変化球投げるなんて。あの人はここ1番の時には、必ずストレートで勝負して来たんだ。」


「それは野球の話でしょ?」


「ピッチングって性格が出るんだ。俺みたいな単細胞は、粋がって、闇雲にストレート投げて、痛い目に合う。でもあの人は、まぁもともとピッチャーとしての力が俺なんかとは違うんだけど、押す時には押して、引く時には、ちゃんと引く。だが、ここぞという場面では、相手がストレートを待っているのがわかっていても、自分の1番の武器であるストレートで勝負する。そこがあの人の凄いところ。だから、もう投げられないなんて・・・本当に惜しいよ。」


そう言って、本当に悔しそうな表情を見せる聡志。本当に白鳥先輩をピッチャ-として尊敬していたんだな。


「でもあの人でも、好きな子に気持ちを伝えるのって、やっぱり簡単じゃねぇんだな。俺だけじゃねぇんだ、なんか安心した。」


「えっ?」


ボソッと漏らした聡志の言葉に、私はビックリして、聡志の顔を見てしまう。


「いや、何でもねぇ。」


聡志は慌てて視線を逸らす。そのまま、少し黙って歩いてたけど


「聡志・・・好きな子いるの?」


私は思い切って聞いてみる。


「いるさ。この年で、好きな女の1人や2人、いない方がおかしいだろ。」


「そっか・・・そうだよね・・・。」


その聡志の答えに、何故か私の心が騒ぐ。


「それって・・・やっぱり同じ学校の子?」


あれ、私、何で食い付いてるんだろ?


「気になるか?」


「別に・・・そんなんじゃないよ。」


今度は私が慌てて、ソッポを向く。


「お前と同じだよ。」


「えっ?」


「手を伸ばしても届かない、だから見てるしかない。」


その言葉に私は、ハッと聡志の顔を見つめてしまう。少し見つめ合った私達だったけど


「なんで急にこんな話になっちまったんだ。やめやめ、柄でもねぇ。」


すぐに聡志が苦笑いを浮かべながら、口を開いた。


「ところで由夏、今度の試験、大丈夫なのか?何だったら、教えてやるから誰かさん達みたいに、一緒に勉強するか?」


「冗談じゃない、なんで私が聡志に勉強教わんなきゃならないのよ。」


「だって、水木を先輩に取られちまったら、誰を頼るつもりなんだよ。」


「今までだって、別に悠におんぶにだっこだったわけじゃないんだから。野球のお陰で、やっと大学行けるような奴に誰が。」


急に雰囲気が変わって、言い合いになる私達。やっぱりこの方が今の私達らしいのかな。


そして、そんな感じのまま、一緒に帰って来た私達。聡志は、駅から自転車を引っ張って、家の前まで付き合ってくれた。


「じゃぁな。」


「うん、ありがとうね。また明日。」


「ああ。」


そう言って、自転車にまたがった聡志だったけど


「由夏。」


「なに?」


「お前・・・変な奴に引っかかるなよ。」


「えっ?」


「じゃ。」


最後にあまりに意外な言葉を残して、呆然とする私を尻目に、聡志は颯爽と走り去って行った・・・。
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