Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「もうよせ、加瀬!」


もはやこれまでと、俺は声を上げた。


「塚原くん・・・。」


突然の俺の登場に、一瞬唖然とした2人だったが、我に返った水木が手を緩めた加瀬から、逃げるように俺の方にやってくる。


「こんな所で、女の子と2人きりで、その態度はフェアじゃないぜ。」


俺の言葉に、加瀬は唇を嚙み締めて、俯いた。


先輩達の勉強会が始まってから、何日か経った。加瀬が水木を、校内でもあまりひと気のない体育倉庫裏に、呼び出したのに気が付いたのは、全くの偶然だった。余計な、おせっかいは承知だったが、なにか嫌な予感がした俺は、水木の後を尾けた。すると案の定・・・


水木に告白した加瀬は、興奮のあまり、彼女を抱きしめようとする。このままではまずい、俺はとっさに物陰から飛び出した。


「それじゃ、せっかくのお前の想いは、水木に伝わんねぇよ。逆効果じゃねぇか。」


その言葉に顔を上げた加瀬は、キッと俺をにらみつけたけど


「水木さん、ごめん。」


と言い残して、走って行ってしまった。


「大丈夫か?」


「うん、ありがとう。」


蒼い顔で頷く水木。


「あいつがやろうとしたことは褒められたことじゃないし、まして許されることでもない。でも、加瀬は本気だぜ。それだけはわかってやれ。」


俺の見るところ、加瀬だって最初からあんなことをするつもりじゃなかった。でもこんなところで2人きりになれば、不測の事態は十分起こりえる。


内容から、人ごみで話せることじゃないだろうけど、加瀬の配慮は足りないし、水木も警戒心なさすぎ。もっと言えば、俺と同じように水木がここに呼び出されたのを知ってるはずなのに、止めない由夏は軽率だし、全く何も気づいてない先輩は呑気過ぎだ。


とにかく、大事にならなくてよかった。水木と一緒に教室に戻りながら、心から俺はそう思っていた。あのまま、事が最悪の方向に進んでしまったら、誰の得になり、誰が幸せになれたと言うんだ。


それにしても加瀬のあの一言は強烈だったな。


『水木さんはあの人のなんなんだ、あの人は水木さんのなんなんだよ!』


加瀬にそう言われて、言葉を失ってた水木はかわいそうだった。でも加瀬、あのセリフは水木じゃなくて、先輩に投げつけるべきだったんじゃねぇかな・・・。
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