Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「聡志!」


学校から戻って、早めの夕飯を済ませた俺は、塾に向かっていた。すると後ろから俺を呼ぶ声が。


「おぅ。」


見れば、由夏が満面の笑みを浮かべて、パタパタと追いかけて来る。なんだよ、そんな彼氏にでも会ったような表情すんなよ、勘違いしちゃうじゃないか。


「どこ行くの?」


「塾だよ。」


「えっ、もう、大学決まってるんじゃないの?」


「なに言ってんだよ。俺は野球部推薦で、ある程度のゲタは履かせてもらえるけど、答案用紙に名前だけ書けばOKなんていう特待生とは違うんだよ。」


「そうなんだ。」


「あんまりみっともない点取って、ダメになったら、自分はもちろん、推薦してくれてる大学の野球部に恥かかせることになる。一般受験より、ハ-ドル低いのは確かだけど、俺の学力じゃ、呑気にあぐらかいてる余裕はねぇよ。」


「そんなんで、よくこの間、私に勉強教えてやるなんて、言えたね。」


「あれは少しでもお前と・・・。」


「えっ?」


危ねぇ危ねぇ、「お前と一緒に居られたらいいなと思ったから」なんて、ついポロっと言ってしまいそうになっちゃう。


「でも会えて、よかった。あとで聡志んち、行こうと思ってたんだ。」


「どうしたんだ?」


「悠のこと、本当にありがとうね。聡志が気が付いてくれなかったら、大変なことになるとこだった。感謝してるよ。」


なるほど、それで由夏の愛想がやたらいいんだ。まぁ理由はどうあれ、由夏に感謝されるのは、悪い気持ちはしねぇし。


「でも水木が先輩と口きかなくなっちゃったのは、あのこととなんか関係あるのか?」


「ううん、実は・・・。」


由夏の話は、俺も十分に驚く内容だった。


「水木はとんでもない勘違いしてるな。今日の白鳥さんの落ち込み方見てれば、わかると思うけどなぁ。」


「そうだよね。」


そんな話をしながら一緒に歩いている時間が、結構嬉しい。でも、由夏もこれから塾、残念ながら、先輩達と違って、違う塾だから、そろそろお別れだ。


「じゃぁな、また明日な。」


先に着いた俺が、そう言って中に入ろうすると


「ねぇ。」


と由夏が呼び止めて来る。


「うん?」


「あのさ・・・。」


「なんだよ。」


一瞬言い澱んだあと、由夏は照れ臭そうにこう言った。


「いい加減ケ-番くらい交換しない?今日みたいに、話したいことがあっても、すぐに話せないじゃん。」


「そ、そうだな。」


そうか、こっち帰って来て3年も経つのに、俺達お互いのケ-番も知らないままだったんだ・・・。俺がガサゴソと鞄からケ-タイを取り出すと、由夏もさっと自分のケイタイをかざす。


「これでよし。」


満足そうにケータイをしまった由夏は、俺に笑顔を向けると


「じゃね。聡志も頑張ってね。」


「あ、ああ。」


俺に手を振って由夏は、歩き出す。自慢じゃないが、俺のケ-タイ、親を除けば、野球部関係者しか登録されてない。女の人の番号なんて、母親とOGのみどりさんを含む4人の女子マネのだけ。あいつのケ-タイには何人の男子の番号が登録されてるんだろ?聞きたいけど、やっぱり聞きたくねぇ。


ちょっと、あいつの後ろ姿を、見送ってた俺は、気を取り直して、塾の建物に入って行った。
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