Smile  Again  〜本当の気持ち〜
そして、とうとう松本先輩が、まさに「凱旋来校」する日がやって来た。


考えてみれば、去年の今頃はまだ、先輩は制服着て、俺達と一緒にここに通ってたんだ。だからその姿をリアルに見た学年が2学年、残っている、校内は一種異様な興奮に包まれていた。


先輩は、放課後に合わせて来校。講堂で全校生徒に挨拶したあと、野球部にも顔を出してくれる予定。俺達も楽しみだけど、先輩も楽しみにしてくれてるらしい。


実は昨日の夜、久々に松本さんからメールをもらった。「明日はよろしく」っていう簡単な内容だったけど、いろいろ生意気なことを言って、先輩を困らせたこともあったのに、わざわざそんなメールをくれて、素直に嬉しかった。


朝から落ち着かない雰囲気の中、2人ほど、ちょっと様子が違う人間がクラスにいる。1人は白鳥さん、水木と仲違いしたままで、もともと最近元気のない先輩だが、今日はいつにも増して、何やら物思いに耽ってる。


そしてもう1人は、柄にもなく、真っ青になって緊張しまくっている由夏。まさかとは思っていたんだけど、立候補した甲斐あって、あいつ本当に、全校生徒の前で、松本さんに花束を渡す役割を担うことになった。


「ねぇ、由夏大丈夫?」


「うん、大丈夫・・・。」


朝から水木と同じような会話を何度も繰り返してる由夏。昼休みだというのに、恒例の屋上ランチに行く様子もない。


自分からしゃしゃり出たくせに、なにびびってるんだろうな。気が付くと、俺はあいつに近づいていた。


「ねぇ、お昼食べた方がいいよ。」


「そうだよ、今からそんなに緊張してたら、身体が持たないよ。」


水木と沖田が心配そうに声を掛けてるけど


「うん、大丈夫だから。」


と答える由夏は、ちっとも大丈夫には見えない。


「なに、柄にもなく固まっちゃってるんだよ。」


そう声を掛ける、沖田も水木も振り向いたのに、由夏は俺の顔を見ようともしない。


「ちょっと行って、花束渡すだけじゃねぇか。安心しろ、松本さんは可愛い子、奇麗な子をわんさか見慣れてるんだ。お前みたいなのが出てったって、ガッカリされることはあっても、関心ひくことなんてありえねぇんだから。」


「おい、いくらなんでも言い過ぎだ。」


俺のセリフに、沖田が慌ててたしなめるようなことを言い、水木もビックリしたように俺の顔を見る。


「ま、すっころんで、全校生徒の前で恥かかないように注意しろよ。」


だけど、俺は更に追い打ちを掛けるようなことを言うと、何も言い返してこない由夏に背を向けた。とにかく、イライラして、腹がたっていた。


「塚原、待てよ。」


沖田が追いかけてくるけど、振り返りもしなかった。だから気付きもしなかったんだ。


「聡志って、そんなに私のこと、嫌いなのかな・・・。」


とポツンとつぶやいたあいつが、涙を見せて、水木を驚かせていたことなんて・・・。
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