Smile Again 〜本当の気持ち〜
12月に入ると、すぐにあった期末試験も終わり、この日、俺はしばらく足が遠のいていたグラウンドに顔を出した。
俺達が抜けてから、最初の大会となった秋季県大会を見事勝ち抜いた後輩達は、関東大会に駒を進めたが、残念ながら2回戦で敗退。2年ぶりの春の選抜大会出場はならなかった。だけど、次の戦いはもう始まっている。下を向いている時間はない。
今日、俺がここに来た理由は1つ。3年間在籍した明協高校野球部を退部する手続きをする為だ。去り難い思いを拭いきれず、ここまで来てしまったが、大学入試までもう2ヵ月を切り、いよいよけじめをつけなければならない時期になった。
ブルペンに入った俺は、久しぶりに剣の球を受けた。去年の今頃、俺を右往左往させていた荒れ球はすっかり影を潜め、奴のボ-ルを受ける度に、俺のミットからは、心地良い音が響いていた。
「ナイスボ-ル!」
その言葉が何度も自然に口から出る。
「変な感じです。」
「何が?」
「塚原先輩がなんにも文句言わないで、ただ俺のボ-ルをほめてくれるなんて。」
「そんなに俺、いつも文句ばっか言ってたか?」
「ええ。ほめられた記憶なんてほとんどありませんよ。」
「そうか、そりゃ悪かったな。」
剣のセリフに俺は思わず苦笑いだ。
「先輩がピッチャーだったから、お前の苦しみがわかったんだよ。」
すると別の方から声がする。見れば、仁村が白石と並んでやって来た。
「先輩、お疲れさまでした。」
「ありがとう白石。」
昔馴染みの2人を冷たくあしらったこともあったのに、わざわざ最後に挨拶に来てくれた可愛い後輩の気持ちが、俺は嬉しかった。
「受験が終わったら、また身体を動かしに来てください。先輩達の追い出し試合もありますから。」
「そうだな。他の連中、動けるかな?」
そのあと、剣を交えて話をした俺達だったが、冬の陽が落ちるのは早い。
「じゃぁ先輩、失礼します。」
「みんなによろしくな。」
「はい。」
俺にペコリと一礼して、また仲良く並んで、歩き出した仁村と白石の後ろ姿を俺は見つめる。
「全く、いつでもどこへ行くにも一緒なんですから。飽きないんすかね?」
呆れたように、でも本当はうらやましそうに剣が言う。
幼なじみ・・・俺と由夏と違って、仁村達はずっと仲良く、ずっと一緒にいる。そんなアイツらを俺も正直、うらやましく眺めて来た。
だけど、最近俺は気づいた。2人は苦しんでいる、あまりにも近すぎて、あまりにも一緒にいることが当たり前すぎて、2人の関係は「仲良しの幼なじみ」から変わることが出来ない。
その関係を進化させたい、間違いなく仁村も白石もそう望んでいる。だけど、その為に一歩を踏み出すのには勇気がいる。もしかしたら、そうすることによって、今の関係すら失ってしまうかもしれない・・・。
アイツらは、それをどうやって乗り越えて行くのだろう。仲良しの幼なじみを続けて行くというのも難しいものなんだな。
そして俺達、俺と由夏は関係を進化させるどころの騒ぎじゃない。やっと人前で口がきけるようになったと思ったら、みっともない口喧嘩を派手にクラスメイトの前でやらかしてしまった。
本当はわかってたんだ、あいつに悪いことをした、酷いことを言ってしまったって。だって、あの時の俺はジェラシ-の塊だったんだから・・・。
松本先輩が帰って来るって、あんなにはしゃいで、何を考えたのか、花束贈呈役の立候補して、それがなんと通りやがった。
まだ先輩を諦めてねぇのか、未練がましい奴だって、腹が立って仕方なかった。だからつい、あんなことを言っちまった。
反省はしてたんだけど、あいつにケンカ吹っ掛けられて、ついカチンと来て、言い返してあの騒ぎに。
気を取り直して、夜にやっと電話で謝ったけど、由夏のご機嫌は直らず、結局また冷戦状態に逆戻り。
ダメだな、こりゃ・・・。
俺達が抜けてから、最初の大会となった秋季県大会を見事勝ち抜いた後輩達は、関東大会に駒を進めたが、残念ながら2回戦で敗退。2年ぶりの春の選抜大会出場はならなかった。だけど、次の戦いはもう始まっている。下を向いている時間はない。
今日、俺がここに来た理由は1つ。3年間在籍した明協高校野球部を退部する手続きをする為だ。去り難い思いを拭いきれず、ここまで来てしまったが、大学入試までもう2ヵ月を切り、いよいよけじめをつけなければならない時期になった。
ブルペンに入った俺は、久しぶりに剣の球を受けた。去年の今頃、俺を右往左往させていた荒れ球はすっかり影を潜め、奴のボ-ルを受ける度に、俺のミットからは、心地良い音が響いていた。
「ナイスボ-ル!」
その言葉が何度も自然に口から出る。
「変な感じです。」
「何が?」
「塚原先輩がなんにも文句言わないで、ただ俺のボ-ルをほめてくれるなんて。」
「そんなに俺、いつも文句ばっか言ってたか?」
「ええ。ほめられた記憶なんてほとんどありませんよ。」
「そうか、そりゃ悪かったな。」
剣のセリフに俺は思わず苦笑いだ。
「先輩がピッチャーだったから、お前の苦しみがわかったんだよ。」
すると別の方から声がする。見れば、仁村が白石と並んでやって来た。
「先輩、お疲れさまでした。」
「ありがとう白石。」
昔馴染みの2人を冷たくあしらったこともあったのに、わざわざ最後に挨拶に来てくれた可愛い後輩の気持ちが、俺は嬉しかった。
「受験が終わったら、また身体を動かしに来てください。先輩達の追い出し試合もありますから。」
「そうだな。他の連中、動けるかな?」
そのあと、剣を交えて話をした俺達だったが、冬の陽が落ちるのは早い。
「じゃぁ先輩、失礼します。」
「みんなによろしくな。」
「はい。」
俺にペコリと一礼して、また仲良く並んで、歩き出した仁村と白石の後ろ姿を俺は見つめる。
「全く、いつでもどこへ行くにも一緒なんですから。飽きないんすかね?」
呆れたように、でも本当はうらやましそうに剣が言う。
幼なじみ・・・俺と由夏と違って、仁村達はずっと仲良く、ずっと一緒にいる。そんなアイツらを俺も正直、うらやましく眺めて来た。
だけど、最近俺は気づいた。2人は苦しんでいる、あまりにも近すぎて、あまりにも一緒にいることが当たり前すぎて、2人の関係は「仲良しの幼なじみ」から変わることが出来ない。
その関係を進化させたい、間違いなく仁村も白石もそう望んでいる。だけど、その為に一歩を踏み出すのには勇気がいる。もしかしたら、そうすることによって、今の関係すら失ってしまうかもしれない・・・。
アイツらは、それをどうやって乗り越えて行くのだろう。仲良しの幼なじみを続けて行くというのも難しいものなんだな。
そして俺達、俺と由夏は関係を進化させるどころの騒ぎじゃない。やっと人前で口がきけるようになったと思ったら、みっともない口喧嘩を派手にクラスメイトの前でやらかしてしまった。
本当はわかってたんだ、あいつに悪いことをした、酷いことを言ってしまったって。だって、あの時の俺はジェラシ-の塊だったんだから・・・。
松本先輩が帰って来るって、あんなにはしゃいで、何を考えたのか、花束贈呈役の立候補して、それがなんと通りやがった。
まだ先輩を諦めてねぇのか、未練がましい奴だって、腹が立って仕方なかった。だからつい、あんなことを言っちまった。
反省はしてたんだけど、あいつにケンカ吹っ掛けられて、ついカチンと来て、言い返してあの騒ぎに。
気を取り直して、夜にやっと電話で謝ったけど、由夏のご機嫌は直らず、結局また冷戦状態に逆戻り。
ダメだな、こりゃ・・・。