Smile  Again  〜本当の気持ち〜
その後も俺達は、なんとか親達を思い留まらせようと話をしたが、もう予約をとっちまったとか、この時期しか見られない名所があるとか、訳のわからんことを言い募り、結局、俺達の学校のある土曜日は諦めるが、日月の1泊はどうしても行くと押し切られてしまった。


「まさか本当に、俺がこの家に泊まるなんて、出来るわけないんだから、由夏はその日の夜は1人ぼっちになりますけど、いいんですね?」


俺は一縷の望みをかけて、由夏の両親にこう言ったけど


「由夏ももう子供じゃないんだから、大丈夫だろ。」


由夏のオヤジさんには、野球を教えてもらっただけでなく、小さい頃から本当の息子のように可愛がってもらったんだが、この時ばかりは、一瞬蹴りを入れたくなった。


由夏を見れば、なんとも言えない顔をしている。話が終わり、何事もなかったかのように、旅行のことで盛り上がっている親達を尻目に、俺達はその部屋を出た。


「由夏、すまん。ウチの親がアホなばっかりに。」


「別に聡志が謝ることないよ。というか、あんな人達から、なんで私達みたいなまともな子供が生まれたんだろ?」


「さぁな。」 


顔を見合わせて、ため息をつく俺達。


「じゃ、戻って勉強するわ。あの人達に振り回されてたら、受かるものも、受からなくなる。」


「そうだね、じゃ気をつけて。おやすみ。」


「明日な、おやすみ。」


こうして、俺は由夏の家をあとにした。


それから、時は過ぎて、問題の3連休がやって来た。と言っても初日の土曜日は、俺達は普通に授業。定期試験も終わったあとの消化試合のような半日だったけど。


「おっ、仲直りしたんだ。」


なんて冷やかしの声を背に、一緒に教室を出た俺と由夏は、駅に向かった。


「明日、朝早く出ちゃうのかな?」


「知らないよ、こっちが気にすることじゃないし。」


由夏はすっかり、おかんむりだ。ま、同感だけど。


「それより、明日晩ご飯でも食べに来る?」


「ありがたいお誘いだけど、明日も塾の自習室行くつもりだから。」


予期せぬお誘いに、本当は飛び付きたいけど、由夏だって受験生。余計な手間は掛けさせたくないし、それに正直、このクリスマスで浮かれている世間の雰囲気の中、由夏と2人きりなんて、ヤバ過ぎる・・・。


「そっか・・・聡志も頑張ってるね、私も頑張らないと。」


「とにかく、明日は戸締まりをしっかりしてな。何かあったら、遠慮なく連絡くれていいから。」


「うん、ありがとう・・・。」


俺の言葉に頷く由夏の表情はなぜか、浮かないものだった。
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