Smile  Again  〜本当の気持ち〜
自転車を飛ばして、由夏の家に急いだ俺は、着くとすぐにインターホンを押した。程なく扉が開くと


「聡志!」


と由夏が飛び付いて来る。


「ありがとう!」


「バ、バカ。」


俺は、慌てて由夏を家の中に押し込む。


「怖かったんだよぅ。」


「わかった。わかったから、ちょっと離れろ。」


このままじゃ、お前もっと怖い思いすることになるぞ。俺は懸命に由夏の身体を離す。


すると由夏は、今度は俺の左手を掴むと、歩き出す。


「本当にごめんね。」


「いいよ、少しは安心したか?」


「うん。」


今の由夏は、さとくんーゆかちゃんと呼び合っていた頃の弱虫由夏そのもの。手を繋いでいるというのに、あまりドキドキもせず、なんか昔のお兄ちゃん感覚に戻ってしまった感じがする。


由夏に手を引かれるままに食卓に入った俺は唖然。用意してある夕飯が、全く手付かず状態。


「お前、夕飯まだなのか?」


「うん、だって・・・。」


冬の風が、ガタガタと窓を揺らすとビクッと肩を震わせ、俺の手を掴む力が強くなる。


どうやら、日が暮れたあたりから、ずっとこうやって震えていたらしい。来るまでは、いい歳して、何言ってんだと呆れる気持ちもあったが、この状況を見ると、もっと早く来てやればよかったと後悔した。


「とにかく食っちまえよ。腹減ったろう。」


「ありがとう、聡志は?」


「俺は済ませた。」


「そう。一緒に食べてくれれば、よかったのにさ。いただきます。」


そんなことを言いながら、箸を手にする由夏。そうか、あの時のお誘いは、そう言う意味だったのか。


食べ始めたのを見た俺は、テレビのスイッチを入れる。


「テレビでも点けてれば、気晴らしにくらいなっただろう。」


「点けてたよ。夕飯用意してる時は、お笑い番組とかやってたのに、食べようとしたら、嫌なニュースとか怖目のドラマとかしかやってなくて、それで消しちゃったの。」


今の時期、怖目のドラマなんか、やってるか?ちょっと拗ねながら、そんなことを言う由夏がなんとも可愛くて、俺は笑ってしまう。


「ごちそうさま。」


10分程で、食べ終えた由夏。少し安心したら、さすがに腹が減ったんだろう。


「先にお風呂入っちゃいなよ、由夏はこれ、片付けちゃうから。」


あれ?また自分のこと、「由夏」なんて言ってやがる。無意識なのかな・・・。


「いや、お前が落ち着いたら、帰るから。」


そう答えた途端、由夏の顔色が変わった。


「ダメ!絶対帰っちゃイヤだ。」


「でも、やっぱり泊まるなんてまずいよ。」


「聡志は由夏に変なことなんて、絶対しないよ!」


「その信頼は、ありがた迷惑だ。俺だって青春真っ盛りの男なんだ。絶対なんて言われても、約束出来ないし。」


「だって、聡志は私になんて、何の興味もないんでしょ!」


「私」に戻った・・・って、そんなこと、どうでもいいか。今の台詞は聞き捨てならんぞ。


「なんで、そう思うんだよ?」


「今までの聡志の言動を見れば、わかるよ。」


そう言うと由夏はまっすぐに俺を見た。
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