Smile Again 〜本当の気持ち〜
それにしても、由夏があんなにあっさりOKしてくれるとはな・・・。
俺の受験も、あっさりと終了した。野球部に履かせてもらった下駄のお陰で。俺は、野球をますます頑張らなければならない立場になったが、それは望むところ。
既に退部した俺が、またノコノコと顔を出しても、後輩達は暖かく迎えてくれた。3月に入ると、追い出し試合があって、大学の野球部からも呼ばれている。もちろん毎日ではないけど、そちらにもある程度、顔を出して行かなくてはならない。
そして4月の入学に合わせて、俺達野球部員は、全員合宿所入りが義務付けられている。初めて、親元を離れての生活が待っている。
その前に、俺にはやりたいこと、やらなくてはならないことがある。その為の由夏との初デ-ト・・・いやこれはデ-トなんかじゃない。あいつと「デ-ト」に行く資格なんて、俺にはまだない。あいつとの初めての2人きりのお出かけは、ただ楽しむだけのイベントじゃないんだ。
由夏からOKをもらった次の日、授業も終わり、手早く昼食を済ませて、さぁ練習と思って、学食を出たら、雨。夕方から雨の予報が出てたのは知ってたけど、予定より早い。追い出し試合に向けて、少しでも時間の欲しい時に、痛いなと思いながらも、どうなるものでもなく、俺が校門を出ると
「塚原。」
と俺を呼ぶ声がする。その声の方を振り向いた俺は、そこに立っていたあまりにも意外な人物の姿に、息を呑んだ。
「久しぶりだな。」
「塩崎・・・さん・・・。」
塩崎知久、俺にとっては、忘れようにも忘れられない仙台時代の1年先輩。もしコイツと出会わなければ、中学生活も野球選手としての自分も、全然違ったものになっていた。俺が今、明協高校にいることもなかったかもしれない。
「なんでこんなとこに・・・。」
挨拶も忘れて、俺は呟くように尋ねる。お世辞にも良好とはいえない関係のまま、それでも部活を共にしたあと、塩崎は地元の高校へ進学して行った。その後はもちろん音信不通、もう出会うこともない、出会いたくもなかったはずのこの男が、なぜ今突然、神奈川の俺の高校の前に現れたのか、全く理解できない。
「俺、東京の大学に進学してな。今日は、雨が降り出したんで、妹を迎えに来たんだ。」
「妹?塩崎さんの妹が、この学校にいるんですか?」
「ああ、お前知らなかったのか?」
そんなこと、なんで知らなきゃならないんだ。全校生徒の顔と名前なんて、わかるわけもないし、塩崎なんて苗字の女子にも、心当たりはねぇよ。
「甲子園でのお前の活躍、見てたよ。お前、いいキャッチャ-になったな。大学でも野球続けるんだってな、頑張れよな。」
「ありがとうございます。先輩は、まだ野球やってるんですか?」
「嫌味かよ。俺なんかが、いつまでも野球続けられるわけないだろ。とっくに辞めたよ。」
吐き捨てるように答える塩崎。相変わらず、嫌な野郎だ。俺がそろそろこんな奴から離れようかと思った時だ。
「お兄ちゃん、ありがとう。あっ・・・。」
後ろから聞こえて来た女子の声に、俺が振り向くとそこには
「長谷川・・・。」
クラスメイトで文化祭の実行委員だった長谷川菜摘の姿が。
「おう、なんだ菜摘。お前、塚原に俺の妹だっていうこと、伝えてなかったのか・・・。」
「うん・・・。」
「そうか、まぁいいや。じゃぁな、塚原。菜摘、行くぞ。」
塩崎はそう言うと、俺に背を向け、長谷川も俺にペコリと頭を下げると、兄貴を追って歩き出した。
(妹?・・・長谷川が、塩崎の・・・どういうことだよ?)
俺の頭は混乱していた。
俺の受験も、あっさりと終了した。野球部に履かせてもらった下駄のお陰で。俺は、野球をますます頑張らなければならない立場になったが、それは望むところ。
既に退部した俺が、またノコノコと顔を出しても、後輩達は暖かく迎えてくれた。3月に入ると、追い出し試合があって、大学の野球部からも呼ばれている。もちろん毎日ではないけど、そちらにもある程度、顔を出して行かなくてはならない。
そして4月の入学に合わせて、俺達野球部員は、全員合宿所入りが義務付けられている。初めて、親元を離れての生活が待っている。
その前に、俺にはやりたいこと、やらなくてはならないことがある。その為の由夏との初デ-ト・・・いやこれはデ-トなんかじゃない。あいつと「デ-ト」に行く資格なんて、俺にはまだない。あいつとの初めての2人きりのお出かけは、ただ楽しむだけのイベントじゃないんだ。
由夏からOKをもらった次の日、授業も終わり、手早く昼食を済ませて、さぁ練習と思って、学食を出たら、雨。夕方から雨の予報が出てたのは知ってたけど、予定より早い。追い出し試合に向けて、少しでも時間の欲しい時に、痛いなと思いながらも、どうなるものでもなく、俺が校門を出ると
「塚原。」
と俺を呼ぶ声がする。その声の方を振り向いた俺は、そこに立っていたあまりにも意外な人物の姿に、息を呑んだ。
「久しぶりだな。」
「塩崎・・・さん・・・。」
塩崎知久、俺にとっては、忘れようにも忘れられない仙台時代の1年先輩。もしコイツと出会わなければ、中学生活も野球選手としての自分も、全然違ったものになっていた。俺が今、明協高校にいることもなかったかもしれない。
「なんでこんなとこに・・・。」
挨拶も忘れて、俺は呟くように尋ねる。お世辞にも良好とはいえない関係のまま、それでも部活を共にしたあと、塩崎は地元の高校へ進学して行った。その後はもちろん音信不通、もう出会うこともない、出会いたくもなかったはずのこの男が、なぜ今突然、神奈川の俺の高校の前に現れたのか、全く理解できない。
「俺、東京の大学に進学してな。今日は、雨が降り出したんで、妹を迎えに来たんだ。」
「妹?塩崎さんの妹が、この学校にいるんですか?」
「ああ、お前知らなかったのか?」
そんなこと、なんで知らなきゃならないんだ。全校生徒の顔と名前なんて、わかるわけもないし、塩崎なんて苗字の女子にも、心当たりはねぇよ。
「甲子園でのお前の活躍、見てたよ。お前、いいキャッチャ-になったな。大学でも野球続けるんだってな、頑張れよな。」
「ありがとうございます。先輩は、まだ野球やってるんですか?」
「嫌味かよ。俺なんかが、いつまでも野球続けられるわけないだろ。とっくに辞めたよ。」
吐き捨てるように答える塩崎。相変わらず、嫌な野郎だ。俺がそろそろこんな奴から離れようかと思った時だ。
「お兄ちゃん、ありがとう。あっ・・・。」
後ろから聞こえて来た女子の声に、俺が振り向くとそこには
「長谷川・・・。」
クラスメイトで文化祭の実行委員だった長谷川菜摘の姿が。
「おう、なんだ菜摘。お前、塚原に俺の妹だっていうこと、伝えてなかったのか・・・。」
「うん・・・。」
「そうか、まぁいいや。じゃぁな、塚原。菜摘、行くぞ。」
塩崎はそう言うと、俺に背を向け、長谷川も俺にペコリと頭を下げると、兄貴を追って歩き出した。
(妹?・・・長谷川が、塩崎の・・・どういうことだよ?)
俺の頭は混乱していた。